復活×鳴門
□百鬼夜行
1ページ/1ページ
「綺麗な月ですね」
彼の世界に来て早数日。
今日もサスケは任務で不在であり、まったりと恋人と過ごしていた。
サスケなりに気を遣ってくれているのだろう。
「ああ。いい満月だ。
そういえば、今日は百鬼夜行日に当たるか」
「百鬼夜行…と言えば、鬼や妖怪の事ですか?」
「そうだ。
深夜を徘徊する異形の集団。
百鬼夜行日とは、その異形の者達が現れると言われている日だ」
「今宵は月見には最適な夜ですがね」
さわさわと穏やかな風が互いの髪を揺らす。
お揃いの黒い髪。長さも似たようなもの。
戯れるようにイタチの髪に触れ、結んである髪紐を解いた。
音もなく髪が散らばり、さっきよりも自由に風と遊んでいる。
ふ、と小さく笑って、根元から指を通し、全く絡まない髪をゆっくりと梳いた。
少しも指に絡まない髪に僅かな寂しさが宿る。
ああ、消えてしまいそうだ。
このまま存在を確かに感じられぬまま、泡沫の様に薄らいで霧散してしまいそう。
己の力で生かしているのだから、彼の命はこの僕が一番よく分かっている。
なのに、ふとこうして不安に駆られる。
「##NAME1##」
落ち着いた声に思考から引き戻される。
初めて僕を見つめている事に気付いた。
その漆黒の瞳には月光が逆光になって、僕が映っているのかさえ分からない。
視線を外す事も出来ず、ただじっと見返した。
不意に中途半端に浮いた手を取られ、ようやく我に返る。
「##NAME1##」
「なん、ですか……?」
掴むというよりは包む様な力で、僕の手首を掴んでいる。
そして、僕の手を引き寄せて己の頬に当てた。
滑らかな肌の感触が、そして夜風に吹かれて冷えた体温が直に感じられる。
「俺がこうして熱を持っているのは奇跡だな」
「……はっ、何を今更……。
僕と出会えて幸運でしたね」
思わず嫌味のような口調になってしまう。
きっと、動揺している事を認めたくないから。
僕の心情を全て見通している彼が憎らしいから。
「月を見ると不安定になる、というのは本当かもしれないな」
「別に。何も考えてなどいませんよ」
イタチが目を細める。
居心地が悪くなって、身体ごとそっぽを向いた。
後ろからゆっくりと腹に手が回され、背中に軽い衝撃が伝わった。
抱き込まれる様な体勢は、酷く心地が良かった。
こんなにも無防備になってしまう自分は、一体誰なんだ?
いつから‘人’に対してこんなにも気を許すようになったのだろう。
いくら信用している人間でも、決して背後は取らせなかったこの自分が。
「ルナティック。
月のせいですよ」
あんなにも光り輝いているから。
他の星達が霞んでしまう程に。
誰にともなくそう呟き、言い訳をする。
滑稽だ、と我ながら思った。
「そうだな。
もう寝ようか。
夜風に当たり過ぎるのは良くない」
「そうですね」
そして、特に言及せずに受け入れてくれる彼の存在は何と愛おしいのだろうか。
こういう時に、僕はまだ未熟なのだと思い知らされる。
もっと年輪を経れば、彼のように穏やかに強くなれるのだろうか。
いいや、無理だろう。
きっと何年経ったとしても、僕は彼の様にはなれない。
だからこそ、こうして惹かれているのだ。
「カタシハヤ、エカセニクリニ、タメルサケ、テエヒ、アシエヒ、ワレシコニケリ」
「……?」
「百鬼夜行の害に遭わないよう、呪(まじな)いの言葉だ」
「ふっ……。
では、いい夢が見られそうですね」
貴方を抱いて、ゆるりと眠りにつこう。
絡まぬ錦糸のような髪も、貴方ごと抱いてしまえば僕の物だ。
そう、その指先も瞳も声も、その命だって僕の物。
どうして気がつかなかったのだろうか。
貴方は当に僕に囚われている。
逃しはしない。
真に貴方が僕から離れたいと願う迄は。
「おやすみ」
「ええ。おやすみなさい」
もう一度髪を梳く。
慈しみを込めて、そっと髪に口付けを落とした。