短編

□見
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白澤は苛々しながら立ったり座ったりを繰り返していた。
自分でも落ち着きがないなと自覚しながらも、窓の外をちらちら眺めてしまう。

「白澤様…、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ…。」

鍋の前に立って薬液をかき混ぜている桃太郎が、呆れきった調子で溜め息混じりに喋る。

「大丈夫なわけないでしょ!
あの鬼神がみやびちゃんとたとえ仕事でも顔を合わせる。それだけでもう駄目なの!」

今日はみやびが鬼灯の所へ薬を届けに行っているのである。

本当はみやびに行かせたくなかったのだが、鬼灯が
「貴方が来るんですか?地獄で拷問を受けたいということですね。
いらっしゃるなら桃太郎さんかみやびさんでお願いします。」
などと言うからである。

桃太郎は基本的に薬を作る専門で、みやびはあまり薬を作れないために、彼女が行くしかないのだ。

「もおー…ほんとに僕がついて行きたかったよ。」

「どうせ即行で喧嘩になって自分が痛い目みるのに…。」

桃タロー君がぼそっと聞き捨てならないことを言う。

「ちょっと!僕がいっつもあいつに負けてるって言うの?
心外だなあ。みやびちゃんは絶対渡さないんだから!」

早口でまくし立てる。

「そんな…みやびさんが鬼灯様にとられるって決まってるわけじゃないんですし…。」

「いーや、何か色々理由つけてみやびちゃんに取り入ってるかもしれない。
…ああぁあぁぁー、早く帰ってこないかなー。」

桃太郎は、みやびのことですぐに一喜一憂する白澤を見て、こっそり小さな溜め息をつく。

「…そのうち帰ってきますって。」


…と、極楽満月の出入り口の戸が開いた。

「戻りましたー。」

みやびがひょこりと間から顔を出す。

「おかえり!大丈夫だった?あいつに何もされてない?」

電光石火で飛びつく白い塊。

みやびは少しキョトンとしつつもにっこり笑って答える。

「えっ?薬届けただけなんだから、何にもないですよ。」

「そうですよ。何を言ってるんでしょうね、この白豚。」

白澤の質問に答える声が2つ…。
みやびの後ろに鬼灯が立っていた。

「うおぉぉい!なんでここにいるんだお前!」

「何ですか、騒々しいですね。
時間があるから送ってあげただけじゃないですか。」

「あ、ここまでありがとうございました。
おかげで行きより早く着きました。」

みやびがぺこりと頭を下げる。

「いえ、いいんですよこのくらい。
朧車に乗ったのは門まででその後は歩きでしたし。」

「でも…送っていただかなくても危なくないのに、わざわざ…。」

会話を聞いているとなんだか無性に腹が立つ。
認めたくないが2人で仲良くやっていたようだ。

「…もういいだろ。みやびちゃん、中おいで。」

「あっ、はい。…鬼灯様、ありがとうございました。」

「じゃあ、私はこれで。
また地獄にいらしてください。」

いちいち言動に腹が立ってしまう。
白澤は勢いよく戸を閉めた。

「あーあ、今日は面白くない一日だったなぁ。
みやびちゃん、あいつにひっかかっちゃ駄目だからね。」

みやびはくすりと笑って微笑ましそうにこちらを見やる。

「心配し過ぎですよ。ほんとに何にもなかったです。」

そう言われても不安は拭えず、白澤は盛大に肩を落とした。










(悪い虫がつかないようにちゃんと見張ってなきゃいけないなぁ。)
(鬼です。誰が虫ですか、失礼な。)


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