短編

□温
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「戻りましたー…。」

極楽満月の戸を、かじかんで力のこもらない手で開けて、力の入っていない声を出した。

外は猛烈に吹雪いているので、開けると一緒に雪が入り込んでくる。

「おかえりみやびちゃん。
寒かったでしょ。早くこっちおいで。」

みやびが中に入ると、テーブルの前の椅子に座った白澤様が自分の隣の椅子をぽんぽんと叩いてみせる。

椅子と椅子の間隔がすごく狭い。
っていうかない。

「ごめんね、こんな大雪なのに薬届けに行かせちゃって。」

隣にそっと座るとさりげなーく腰に手を回してくる。
同時に、冷え切った身体に白澤様の温もりがじんわりと伝わってくる。

「いいんです。ここを出る時には降ってなかったんですから…。
まさかこんなに振るなんて予想出来ませんよ。」

「いやいや、みやびちゃんにこんな重労働をさせちゃうなんて…。大丈夫だった?。」

白澤様が心配そうな声でみやびの顔を覗き込む。

「重労働でも何でもないです。平気ですよ。」

べたべたに過保護な白澤様の顔を見つめてにっこり笑ってみせる。

「ほんとに?
でもお詫びに今日はずっとみやびちゃんをあっためてあげるっ。」

「白澤様…これじゃ動けませんよぉ…。」

手を回す、を通り越して完全に抱きつかれる。
軽く身をよじるが、白澤様の手はみやびの身体をがっちりと締め付けていて離れない。

「全部僕と行動を供にしてれば君はもう動かなくていいんだよ。
あっためてあげるし、いいでしょ。」

あっためてあげる、をやけに強調する白澤様にくすっと笑ってしまう。

「そんな事言って、本当の動機は不純なものなんじゃないんですか?」

「んー?そりゃあ勿論みやびちゃんの柔らかい身体に触ってたいっていうのもあるけどさ。」

みやびの二の腕のあたりを頬擦りしながら、堂々と暴露する白澤様。

それから、みやびの耳元でそっと囁く。

「大好きだからこうしてたいんだよ。」

その言葉にぽっと心が温かくなる。

みやびはゆっくり身体を動かして白澤様の首に手を回して抱きついた。










(大好きだから、みやびちゃんの身体どこもかしこも触っていいよね。)
(ちょ、ちょっとそれはっ…!)


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