短編
□子守唄
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俺がここに来てからもう、半年がたった。初めはとても戸惑った。知らない土地で右も左もわからなかった。今までの常識も全く意味のないものになっていた。今俺がこうして笑っていられるのも、俺を拾ってくれた家の人たちがとても優しかったからだ。素性もよくわからない、しかも異世界の人間の俺に一緒に暮らそうと言ってくれて、ここで俺に居場所をくれた。元の世界で居場所のなかった俺は、家族だと言われた時とても安らいだことを覚えている。
まぁ、そんなこんなで俺は幸せに暮らしている。
「おーい、ナオキ」
「あ、じぃ様」
少し離れたところから自分を呼ぶ声が聞こえる。じぃ様はこの世界に来て俺が初めて出会った人だ。そして俺を拾って家族にしてくれた。書類上では俺とじぃ様は親子ということになっている。俺は本当の父のように慕っている。じぃ様も孫のようにかわいがってくれる。じぃ様の本当の子供とも仲良くしてもらっている。
「あまり一人で遠くに行くもんじゃないぞ」
「相変わらず心配しょうだな、ただ精霊木の所に行くだけだって」
「あそこへはあまり近づいてほしくはないんだがなぁ」
「わかってるって、大事な木なんだろ。なんか一日に一回は行かないと落ち着かないんだよ」
「だから毎回わしを呼べと言っておるだろ、あやつも心配するぞ」
「じぃ様も兄様も過保護すぎるんだよ」
二人はこの通り俺に対してとても過保護だ。何をそんなに心配しているのかわからいがとにかく何かにつけて一人で行動するなとうるさい。それに何かあるとすぐ、俺を猫可愛がりする。
別に嫌ではないがやっぱりこの歳にもなると恥ずかしいものだ。何度言ってもやまる気配はないからもう諦めてはいるが、なんでも買い与えようとするのはやめてほしい。
「じゃぁ行こうか」
「うん」
「このあと少し大事な話がある、なに悪い話じゃないさ」
「わかった、兄様の部屋?」
「あぁ、そうじゃ」
なんだろう話って、悪い話じゃないって言うけどその割に妙に真剣な顔だったし。家を出て行けとかだったらどうしよう。今更ひとりで生きていけないよ
「これ、そんな顔をせんでいい」
顔に出ていたのかじぃ様が頭をなでながら安心させるように笑った。その顔は遠い日に見た父と同じ顔だった。やさしい、愛情に溢れた顔だった。ずいぶん前に無くして諦めたもの再び惜しみなく与えられてここに来る前より俺はだいぶ脆くなった。
「ナオキはまだ学園に通う歳だろう、その話だよ」
「学園?」
「そうじゃ、詳しくはまた後で話そう」
「うん!じゃぁ早く行こうぜ!」
「これ、あまり急ぐと転ぶぞ」
「そんなに子供じゃない!」
二人は他愛もない会話をしながらまた精霊木まで歩き出した。
精霊木は精霊界にある精樹と繋がっている四本の木のことだ。じぃ様はそのうちの一本を守っている。俺はこの世界にはなかった五本目の木を経由してこの世界に来た。神社だった俺の家にあった御神木は、この世界にあった精霊木と同じ物のようだった。ようだったと、推測しかでしか言えないのはあちらへ行って確かめることはもう出来ないからだ。ただ、違う世界と繋がっているという点において、他にありえないことからじぃ様やこちらの世界の人もそう考えているようだった。だがそれがどうやって繋がったかはわからなかった。
「やっぱりうちの御神木にそっくりだ」
「あっちの家にあった木のことか?」
「うん、あの木は俺のお気に入りの場所だったんだよ。毎日上ってた」
「おいおい、大事な木だったんだろう。いいのか?」
「ははっ、ダメだったよ」
「ナオキはやんちゃだな」
「御神木の上が一番落ち着いたんだ、家には居づらかったから」
「・・・・・今はわしらがおるよ、一杯甘えなさい」
「・・・・ありがとう」
「だからここに来るのはやめないかい?」
「えー、てかじぃ様はなんでそんなに嫌がるのさ?」
「だって、いつまたゲートが開いてナオキが帰ってしまったらさみしいじゃないか、それに今度はどんな危ないところに繋がるかわからないじゃないか」
「じぃ様・・・・・」
「だから行くときは絶対わしを呼ぶんだぞ」
「わかったよ、今度からはそうする」
「しかしなぜそんなにもこの木が好きなんだ?この木のせいで大変なめにあったのに」
「んー、なんでだろう?わかんないや!」
「はっはっはっ!なんだそれは」
「笑うなよ!もう、行こう!」
「はいはい」
本当になんでかわからない。でも、どうしてか呼ばれている気がするんだ。誰かわからいけど、ここに来てからずっと、誰かに呼ばれている気がするんだ。
――――ママ、ママ、早く、早く来て――――