□ue,34.5 うれしかったこと
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たぶん、なんとなく
自分でも感じてたんだと思う

リゼンブールの駅で再会したときのアルとエドの雰囲気が、イーストで離れてしまったときのものと違う気がして、

今思えば私は少しだけ不安になっていた





ue,34.5 うれしかったこと



二人は本当にいろんな場所を旅してきていて、聞く限りトラブルに巻き込まれる‥‥というよりは自ずから首を突っ込んでいることが多いみたいで、でもその分親しくなった人たちも二人の会話から出てくる名前の多さでわかっていた。



「‥そういやマルコーさんの研究書がセントラルの図書館に納められてるんだったらなんで今まで気付かなかったんだ?」
「広すぎるからじゃないのかな。だってセントラルの図書館は一生使っても読み切れないって言われるくらいだし」
「だからこそだよ。そんな量なら尚更しっかり管理されてるだろうし、検索だってしやすいように整理されてるはずなんだ。そしたらおれたちが見逃しても大佐は見逃すなんてありえると思うか?」

内戦に参加してた錬金術師でアームストロング少佐が知ってて大佐がティム・マルコーを知らないなんてありえないだろ。人体錬成に少しでも引っ掛かる蔵書は資格取ったときに大佐に一通り調べてもらってんだ。でもティム・マルコーの名前さえ出てこなかった。


「うーん‥でも本のある場所は教えてもらったし、きっとマルコーさんうまく隠したんだよ」
「アル、お前呑気な結論出すなよなー」
「兄さんは深く考えすぎなんだよ。きっとその著書を見れば理由もわかると思うな」
「だからそれを見る前だからだろ?」
「そんなことないよ。すぐややこしく考えるんだから兄さんは。ねえ名無しさん」

「え、私!?」


同じ空間にいるから話はなんとなく聞いてたけど完全に会話の外側にいたからおいそれと返事できるわけもなくそもそも話の種がわからない。


「えっと、ごめん。深く考えるのがエドだっけ?」
「‥‥つーか名無しさんは本能的に動くタイプだな」
「え?」
「うん。僕もそう思う」
「本当!?」
「俺タイプだな」
「違うよ兄さん。名無しさんはそういうとこは兄さんと似てるけど性格は僕と似てるんだから深読みなんかしないよ」
「でもアルよりは用心深さがあると思うぜ?」
「ちょっと二人とも‥‥」


だいたい兄さんは、んなことあるかお前だっていつも、‥‥!、‥‥‥!?、‥‥‥‥‥

二人のじゃれ合いは何度も見たことがあったけれど今日は一段とヒートアップしたみたいで仲裁に入る隙が見つからない。
ついでにいえば口論の種の話題を知らないしわからない。
勢いで組み手まで始めた(いや今回は兄弟喧嘩?)二人を見て名無しさんはそっとその場を離れた。



「‥‥ううーん」

声を出してうなってみても胸の内にあるものの正体は見えないし解決もしない。
なんかこう、やきもちチックだけど別に羨ましいとかとは違っていて、いろいろ考えてみたけれど結局答えは出ないまま時間がたてばそんなことすらほとんど忘れていた。


思い出したのは、シェスカにマルコーさんの本の内容をおこしてもらった書類を受け取りにいった日。



「よし!アルこれ持って中央図書館に戻ろう!」
「うんあそこなら辞書が揃ってるしね。はいこれ名無しさんの分!」
「っわ!」


ちょうど受け口になっていた手元に紙束が降りてきて慌てて受け取ると目の前のアルが頷いた。
数日前のもやもやしていたのを思い出したのはその時で、その想いが吹っ飛んだのもその時だった。だから、笑った。


「シェスカ本当にありがとな じゃ!」


お礼もそこそこだが一刻の時間も惜しいらしい二人の勢いに押されて先を歩くアルフォンスについて名無しさんもシェスカの家を出た。それとほぼ同じタイミング、

キャー!!――――!!
―――――――!!


「!っなっなに‥!?また本崩れた!?」
「ん?違う違う、大したことないさ」
「わっ!‥そうなの?」
「そうそう」

振り返りかけた頭をエドに鷲掴みされて前へ進めと促される。
結局シェスカとロス少尉の叫び声はなんだったんだろう‥?


「さっき話したけど果てしない作業になるぜ。もうこればっかりは知識云々よりひらめきだから名無しさんが簡単に気づいちまうこともあるからがんばれよ!」
「マルコーさんの期待にも応えなきゃいけないしね!」



「ねえねえところでマルコーさんって誰なの?」

至って普通の質問だけど自然と口から出たことで私は内心びっくりした。話の輪の中に入れなくていつもなら当たり前のようにしていた質問をしてなかったのだ。

でも見れば二人もびっくりしたようなきょとん顔でこっちを見ていた。


「‥‥あ、お前知らなかったのか?」
「そういえば名無しさんいなかったもんね!もしかしてだからあんまりマルコーさんの話に入ってこなかった!?」
「あ、うん。そうかも」
「そうだ!名無しさんは大佐のせいで一本あとの列車乗ったんだった。同じ列車でリゼンブール着いたから後で話そうと思って忘れてたんだな」
「‥あ、あのときの途中下車?」

頷く二人を見て一気に繋がった。今思えば違和感を感じ始めたのも“マルコーさん”の話を聞くようになったのもリゼンブールで合流してからで、私は“マルコーさん”を二人が私と会う前の旅で出会った人だと思っていたから離れたところから何となく聞いているうちに気付けばなんとなく蚊帳の外のような気持ちになってしまっていたのだ。


「‥‥なんだそっか」
「「?」」
「あ、あのね教えて欲しいの“マルコーさん”のこと!」
「それがアームストロング少佐の知り合いで停車した駅で本当に偶然少佐が気づいてな、――


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勝手に寂しがってただけなんだけど、当たり前みたいに資料を渡された些細なことが旅の仲間だって認めてもらえたみたいでうれしかった

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