綱吉と過ごしたカウントダウン

□2007.12.26.(wed)
1ページ/4ページ








まったく、訳がわからない







=== 12月26日(水) === 一日目 ===








急に赤ん坊から頼まれたのは、あの沢田綱吉っていう草食動物の世話

なんでも今のままではなにも成長しないらしい

群れるのは嫌いだけど、他でもない、赤ん坊の頼みだからね

貸しを作っておくに越したことはない


「し、失礼しまーす…」


さっそく応接室の扉を開いてやってきたのは沢田綱吉

赤ん坊の言うことに逆らえない、という顔をしているのがわかる


「あぁ、赤ん坊から話は聞いてるよ、沢田綱吉」

「ど、ども」


目が泳いでる

そりゃ、僕と二人きりになるのはこの草食動物にとっては命にかかわることだ、当然だと思う

僕も僕で、忙しいからかまってる暇はないけど


「悪いけど、僕は忙しいんだ。五月蝿くしたり邪魔になるようなことをしたら問答無用で咬み殺すから」


あ、顔色が悪くなった

これで少しは気にならずにすむかな…

けど、


「……忙しいって、この資料の山…」


まさか、話しかけてくるなんて思わなかった

多少なりとも驚いたけど気付いてはいないだろう

こんな草食動物にもわかるほどのリアクションなんてするだけ無駄だ


「全部風紀の仕事の一部だよ、まだまだ残ってる」

「これで一部ですか?!っていうかこれ全部一人で?!」

「そうだけど、何?」


いちいち五月蝿い

さっき釘を刺したばかりなのに良い度胸してるよね

これ以上何か言ってくるなら咬み殺そうか…


「…俺、なにか手伝いましょうか?」

「は…」

「―――…っ!」


一瞬、何を言ってるのかわからなかった

よくよく考えてみればそれは草食動物からしたらすごい一言だったと思う

自分でも驚いているくらいだ

僕だって驚くさ

なんか自己嫌悪でも始めそうな沢田に呆れて息を吐く


「…いいけど」

「え」

「そのテーブルの上にある資料、全部判子待ちだから適当に押して職員室横の資料室に置いてきて」

「え、は…?え?」

「手伝ってくれるんでしょ?それとも何、そんなこともできないのかな、君は」

「い、いえ!そんなことは!!」

「そう」


自分でも、正直驚く

咬み殺す気すらうせるくらいに、天然、っていうのかなこれは

手伝ってくれるならそれで良い

僕の仕事が減るからね

いい加減もう良いだろうと資料に目を移す

慌ててソファーに座る沢田の姿が目の端に映った


「…これ全部、目を通したんですか?」

「……そうだけど」

「うわー…」


驚いているのか、感嘆しているのか

まったく、なんだっていうんだ

今まで草食動物をよく観察したことはなかったけど、以外に面白いかもしれないとすら思えてくる

でも、こんなこと考えるの初めてだ

全部この、沢田綱吉という少年から与えられたものだというのなら…


「………よく、わからないね君は」

「え?」

「なんでもない」

「……」


よくわからない

なんだってこんな感情

とにかく、さっさと仕事を終わらせて帰ろう


そう思っていても、無意識に沢田に視線を送ってしまうんだ




  
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ