綱取物語

□捌
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「おめでとうございます、綱吉様」

「右大臣殿も、一人息子が元服してさぞお喜びのことでしょう」

「しかし、十五歳で元服とは珍しい」

「うちの娘はたいそうで気が良くて…」

「それならうちの娘も…」


その日、皐月に入ったばかりの日、沢田邸には祝いと、娘を妻に、との客でいっぱいだった






=== 綱取物語 === 捌 ===






「疲れる…っ」

「お疲れ様、まだまだこれからだよ」


自室に下がって、暫しの間休憩

一緒に部屋に来た恭弥と共にお茶を飲む

烏帽子を脱いで横に置く

結構に肩が凝った


「ほとんどの人が自分の娘を、って言ってますけど」

「あんなの関係ないよ、放っておけばいいんだよ」

「恭弥殿も何か言われてましたね」

「僕にもそういう話がくるんだよ、じじい共の機嫌を損ねないようにしながらやんわりと断るのは面倒だけどね」

「じ、じじ…」


はぁ、と息を吐いて眼を閉じる

なかなか瞼が開かなくて、どれだけ疲れていたのかがわかる

すると恭弥に呼ばれた


「綱吉、眠たくなったのかい?」

「んー…そうかもしれませんけど、さすがに今寝るわけにもいかないし…」

「それはまぁそうだろうね、何せ今日の主役は綱吉だもの」

「うー…恭弥殿代わってください」

「こればっかりは無理。」


クスクスと喉の奥で苦笑する

まったく、目の前にいる子供は突拍子もないことを良く言う

でもそこがまた可愛いと思うのだが…


「…元服かぁー」

「うん?」

「なんか、いきなり大人になる、って感じですよね」

「…そうだね、でも…」

「?」


一口、お茶を啜ってからにこりと微笑まれる

その表情がとても綺麗で、思わず頬が染まる


「大人だとか、子供だとか、そういうの関係ないよ」

「…恭弥殿」

「いきなり大人、って言われたってなにがどう大人なのかわからないし、逆もまた然りだよ」


人間が勝手に引いた境界線

しかし、そんなものは関係ないという


「それに、綱吉は大人って感じ、しないしね」

「あ、それ酷いです。」

「自分でも思ってるだろう?」

「そう、ですけど…」


誰かに言われるのはなんか嫌だ

渋い顔をしている綱吉に苦笑して、ごめんごめん、と頭を撫でる

撫でられる時の表情はまさに猫のよう

恭弥の腕についた月長石が手の動きにあわせて揺れる

それをみてなんだか嬉しくなった


「そろそろ戻らないと主役がいつまでも引っ込んでたら意味ないし」

「そうですね…あ、烏帽子…」


なかなかに自分で被るのは難しい烏帽子

どうにかしようと悪戦苦闘するもやはり曲がってしまう

見かねた恭弥がきれいに整えてくれた

そのまま、まだ騒がしい庭のほうへ向かう
  
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