月魄の狼-The Requiem of War-

□5.歓迎
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「姫、ここは俺がやりますから休んでください」

『うん。じゃあお願いね』


落ち葉の入った籠を持った時雨と別れ、私は部屋に戻った。
戻って来たものの……暇。特にすることもないし…
尻尾と黒靭の手入れをしたし、女中さん達はもう何もしなくていいって言うし…忙しそうだし…


『う〜ん……そう言えば、朝から政宗の姿を見てないや』


前に仕事サボって一緒に城下行ったから、仕事が山積みで部屋に籠りっぱなしなんだろうなぁ。

お茶でも出してあげようかな? そう思い、厨(くりや)へと足を向けた。






















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お盆に湯呑みを乗せ、政宗の部屋へと向かう。
居候の身なんだから、城主にこれくらいしないと…!


『政宗、ちょっといい?』


聞こえなかったのか……返事がない。もう一度呼んで見たけど反応がない。


『開けるよ?』


スッと障子を開けて覗くと、周囲には散らばった紙に書物、政宗の忙しさを物語っている。
あ、政宗寝てる。手から零れ落転がった筆、目元はアイマスク替わりにか腕に隠れて見えない。
私は人間より鼻は利くが耳もいい、今はしまってあるけど、少し開いた口からは規則正しい呼吸音が聴こえる。


『もう、政宗ったら風邪引いちゃうよ』


今日は風もあって肌寒い、政宗が薄着に見えてこっちまで寒くなる。
お盆を机に置いて、傍にあった蒼い上着をかけようとした時……


『きゃっ!』


寝ぼけた政宗が、私の腕を掴みグッと引き寄せた。目の前には政宗の寝顔、私が抱き枕状態になっている。


『はわわわわわわわわ…!!』


頭がパニックで爆発しそう。何だかドキドキしてて、顔が熱い。
腰や頭に手が添えられ、政宗の顔はゼロ距離の位置にまで迫っている。
どうしよう、この状況!! 起こすのは、何だか悪いし…動けない。
政宗って普通の人より相当な握力があるから、振りほどけない。
けれど、この逞しい腕の中、不思議と嫌ではなかった。
あの時もそうだ。一緒にお忍びで城下に行って、小十郎や時雨に怒られた日も…


《オレが天下を取ったら、アンタに世界を見せてやる。誰もが笑って暮らせる天下を……オレの傍に居ろよ》


里の大人たちは、人間はすぐ嘘を付くから信じられない。そんなことを言ってたけど、そんなことはないのかもしれない。
あの目が嘘を付いてはいなかった。だから信じるよ…
それいにしても……政宗ってまつ毛長い。よくよく見れば、女の人みたいにまつ毛が長いような気がする。女装出来そう…
茶色い髪をサラッと触れてみると、ふんわり柔らかい。
お父さんも吸っている煙管の匂い、煙管の匂いってあまり好きじゃないけど…この匂いはとても安心する。


「そんなにオレの顔を見やがって…惚れたか?」

『なッ!?』


さっきまで寝ていた政宗がゆっくりと左目を開け、ニヤリと笑っていた。


『起きてたの?』

「ついさっき起きた」


―ギュウゥ〜

さらに私を自分に引き寄せ、髪をすくって指に絡める。


「甘い匂いがするな…Hannyは」

『〜〜〜〜///』


今の私は林檎みたいに真っ赤な顔をしているだろう。
恥ずかしくてすぐにでも逃げ出したいが、政宗ががっちりと体を抱きしめているので抜け出そうにも抜け出せない。死にたいほど恥ずかしい!!


『ね、ねぇ、もう離してよ。まだ仕事残ってるでしょ?』

「あぁ、まだ少しな」


そういって軽く舌打ちをした政宗は重たそうに体を起こし、上着を肩に羽織った。
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