月魄の狼-The Requiem of War-

□3.天満月の唄
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「姫、まだ起きているのですか?」

『お父さん達に手紙を書いてたんだよ』


筆を置き、綺麗にたたんだ文を見せた。事前に持っていた小型でコンパクトな筆と墨、紙を鞄から出して書いていた。
定期的に書かないと誰かさんがうるさい。


「そうでしたか。では、俺が送っておきましょう」

『うん、ありがとう時雨』

「早く寝ないと体を壊しますよ。それと、朝起きれなくなりますから」

『えぇ〜、もう私子供じゃないよ!』

「いいえ、まだまだ子供です。生まれたてと言っていい子供です」

『ムゥ〜…』


ムスッとして、頬を膨らます。
そんなこと分かってる、昔から過保護なんだから…
時雨に口で勝ったことが一度もない。いつも説得力ありありの言葉で返される。
勝てる人と言えば、長である父と母ぐらいである(少なっ!)
とにかく、時雨に勝てる人物はごく少人数だ。
机の上を片付け、渋々と布団に潜りこむ。時雨は外で見張りをするらしい。
たまには布団で寝たらいいのに、と言ったが頑として聞かなかった。


『時雨、風邪引かないでね』

「妖怪は病気になんてなりませんよ」


ニコッと笑い、私に布団をかけると時雨は障子を閉めた。そして、私は瞼を閉じた。


















**********


どのくらい経ったか、唐突に目が覚めた。見慣れぬ木目の天井が目に入る。
やっぱり慣れない所にいる所為なのか、落ち着かないみたい……
いや、やっぱり不安なのかもしれない。
こんな人間の棲む屋敷の中、例えるなら<妖祓い(アヤカシバライ)>といった奴らに見張られているのと同じだ。
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