月魄の狼-The Requiem of War-

□14.愛しいヒト
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抑えきれない胸が痛む。


特別な目でオレを見てくれ。


オレの傍で笑っててくれ。


お前以外考えられない。


ずっと…"─────"


14.愛しいヒト
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※お手数ですが、三つ目の名前変換にさ行のある方はしゃ・し・しゅ・しぇ・しょに変換してから閲覧することをオススメします。




シンシン…と、現在奥州の地には雪が降り続けている。
山も畑も辺り一面が銀世界となり、純白に染まっている。
音もなにもない静かで穏やかな午前。


「神那」

『ひゃい!』


廊下ですれ違い、ただ普通に名を呼んだだけなのに神那は飛び上がるほど酷く驚いた。
振り向いた神那の目は左右へ泳いでいて、オレと目が合わない。
手には茶道具の入った箱を抱えいる。挙動不審な態度を示す神那に首を捻る。


「茶器なんて持ってなにするんだ?」

『あ、えっと…茶道の練習!茶道の練習するの!!じゃあね!』

「あッ、おい!」


神那は制止も聞かずにそそくさと、逃げるように走って行ってしまった。


「なんなんだ…?」


オレ、何かしたか…?
いくら考えてもオレが何か神那の嫌がることをしただろうか…?


「嫌われた?梵が?……気のせいじゃないのー?」

「けどなぁ…どうも最近神那がオレを避けているっぽいんだよなぁ…」


執務室に戻り、さっきの出来事を話すと書類の束を持った成実が考えすぎだと諌め、印を押した書類のcheckをしていた小十郎の手が止まる。


「確かに。最近神那は挙動不審といいましょうか…時雨に聞いても分からないと」


犬ッコロは直接本人に聞いて見ようと言っただけで、何故神那が挙動不審なのか分からないらしい。
神那の態度に疑問を抱えながら政務を再開すると、


―ボォンッ!


突然の爆発音が米沢城全体に広がった。


「なんの音!?敵襲?」

「政宗様!音からして神那の部屋からかと!」

「急げ!小十郎、成実!」


オレ達は、それぞれ六爪や刀を持って音のした方へ走る。
城中は、なんだ何事か敵襲かと女中や兵達がざわざわと騒ぎ出している。
神那の部屋からは、障子が開いていて、白い煙が立ち込めている。
三人が部屋につくと、白い煙が薄れてきて騒ぎ声が聞こえ始める。


「モチィイッ!!貴様俺達に何を飲ませたぁぁあああああ!!!」

「ちょ、お願い。苦しいッス、時雨さん……」

「What!?一体どうなってやがるんだ!」


薄黄色の狐耳に、フサフサの尻尾を持った餅のような妖怪・モチの姿と、鬼の形相でその小さな体を激しく揺らす少年が居た。
てか、アイツまた来たのかよ…


「わっ!何コレ!?」


後ろから成実が目をぱちくりさせる。
とりあえず小十郎が、憐れなモチの胸ぐら(?)を掴んでいた齢十一,二程の少年の手からモチを離す。


「おいガキ!そいつを離せ!」

「俺を餓鬼扱いするな片倉!!」

「お前時雨か!?」


少年は金色の瞳に黒髪、右頬の紅い二本牙の模様。よくよく見れば見覚えのある装束を着ている。


「そのイカれた屑餅を寄こせ!!」

「まぁまぁ落ち着いてよ、ぐれさん」


畳の上に "犯人は時雨" と赤い字で書かれた文字を残して気絶しているモチ。
モチを掴みかかろうとしている犬ッコロと、小十郎と成実が諌める。
犬ッコロとモチは、正直どうでもいい。俺のHoneyは何処だ!
まだ部屋の中は煙で立ち込め、視界は悪い。右目も視えていれば広く見渡せるのにと、狭い視界を忌々しく思った。


「…?」


突然袴の裾を引っ張られたように感じて視線を下げると、長い銀髪の子どもが不思議そうにオレを見上げていた。
ブガブカの藍色の着物、ピンッと立った獣耳、紅い大きな瞳。
犬ッコロと同じ紅い双牙の紋様が両目尻にある。第一印象としては美少女だ。
いや、まさか。そんなワケがない。
見覚えのある銀髪の子どもと目線を合わせ、恐る恐る訊ねてみる。


「Honey……神那…か?」


Yesと答えるように、にぱぁーッと神那は無邪気な笑みを向けた。
途端、あまりのcuteさに膝から崩れ落ちる。


「神那ァアアァァアアァアアァァアアーーーー!!!」


何だこのカワイイ生き物はッッ!!現実か!?これはRealか!?
夢じゃねぇよな?夢じゃねぇよな、コレッ!?


「おい、モチ!!説明しやがれ!」


小十郎が気絶しているモチを起こす。状況の説明を促す。


「えっと…あたい、変若水(おちみず)飲ませちゃった。テヘッ」

「「テヘッ、じゃねぇだろうがぁああああああ!!!」」


犬ッコロと小十郎の怒声が城中に響き渡る。
何はともあれ、こんなCuteな姿の神那を見られてオレ的に最高にHappyだ。モチ、今回だけは礼を言うぜ…
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