月魄の狼-The Requiem of War-
□9.月魄姫(中)
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漆ノ獣は、それぞれ気に入った国に
里を設け、一族と共に平穏に暮らした。
弐ノ獣は、関東と奥羽を治めていたが……
奥羽ノ地を、弱き妖達に明け渡し、里を開いた。
弐ノ獣は、狼王と名乗る。
9.月魄姫(中)
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「おら達はもう、我慢できねぇべ!!」
「もうこんな暮らし嫌だべ!!」
「悪いおさむらいはやっつけるだー!!」
私達が来た時、ちょうど一揆が始まろうとしていた。運が良かったのかもしれない。
鍬(くわ)や鉈(なた)、鎌を持った農民が何百人といた。
両軍睨み合いが続いている。こちらは陣を設け、作戦会議をしていた。
「敵の大将は、子どもだそうです」
「What?子どもだと?」
「何でも大きな木槌(きづち)を持った、十数歳の女の子だって物見兵が言ってたよ」
床几(しょうぎ)に座る政宗に、小十郎と成実が敵の状況を報告している。
どうも、木槌のハンマーを持った十代の銀髪の女の子が一揆を束ねてるらしい。
相手の数は、四百人くらい。数はこちらが上回ってるからいいけど。
【姫、さっきより妖気が濃く感じます。いえ、これは邪気と言っていい禍々しさ】
『そうだね。嫌な感じ…』
十代の女の子が一揆を束ねてることには驚いたけど、城にいた時より妖気が濃くなったことも気になった。
対一揆衆への段取りを成実に言ったり、それぞれの役目を確認をしていく。
「───まず、そのガキを説得させる」
『じゃあ、その子の説得役やるね』
「「はぁ!!?」」
伊達従兄弟が、同時にこちらを向く。さすが従兄弟。
『だって、女の子同士なら話しやすいと思うよ?』
【確かに。目つきの悪い奴や強面な奴が話をするより、いいと思うが?】
「けどな…」
「政宗様、此処は時雨の言う通りです…神那に任せるべきでしょう」
「……Okey.アンタに任せる」
伊達軍の軍師である小十郎のいう事に、政宗は悔しそうに折れた。
『任せて!これが終わったら怪我人がでるだろうし、その時も任せて!』
【姫、無理は禁物です】
念を押された。
『あと、念のために…』
「…?これは何だ?」
ウエストポーチから出し渡したのは、三つのお守り。三人に渡した。中には護符と私の髪を入れてある。
『もし、妖怪に出くわして邪気にやられないためにも。半妖の私なんかに大した力はないけど…無いよりはましだと思う』
「アンタ、髪を…」
『髪なんてすぐ伸びるよ』
そんな悲しい顔しないで…このくらい安いモノだ。大丈夫だと微笑んだ。
どうして、この人は他人の事なのにそんな自分の事のように悲しむの? よく分からない…
「…Okey,貰っとくぜ」
「ありがと、神那ちゃん!!」
何はともわれ伊達従兄弟が喜ぶなか、護符を凝視していた小十郎が、
「これは大口真神(おおぐちまかみ)の札か?」
『そうだよ、よく分かったね小十郎!』
「俺の父が神職だったからな」
へぇー、だから札とかにも詳しかったんだ。
そういえば、小十郎からどことなく普通の人とどこか違うなぁ……
軍全体の出陣の準備が出来て、こうして一揆鎮圧戦が始まった。
「お侍が攻めてきたべッー!!」
「迎え撃つだッー!!」
「一揆だ!一揆だ!うちこわしだーッ!」
私達に気づいた農民達が一斉に攻めてくる。
「お侍をやっつけるべー!」
一揆衆の奥から甲高い声が聞こえた。もしかして、敵の大将?
その女の子の声に呼応し、一揆衆は勢力を上げ始めた。やっぱり、この子が大将だと確信した。
時雨の背に乗り、黒靭を抜刀する。迫りくる農民達を峰で薙ぎ倒しながら、あの声が聞こえた場所を目指す。
予想以上に、農民達の勢いがいい。まるで雪崩のようだと思った。
「キリがねぇな…」
応戦する政宗が呟く。
「このまま応戦していてもこの勢いでは、中々前に進めませぬな…」
政宗の背を護る小十郎が、悔しそうに言う。
確かにこのままじゃ、戦が長引いて怪我人がたくさん出てしまう。一刻も早く大将を見つけなきゃ。
『時雨、飛べる?』
【なんとか。どうするんです?】
『上から見て見る』
「神那ちゃん、何する気?」
『敵将の所に行ってくる。大体の位置は何となく分かってるから』
時雨の足から炎が吹き出し、勢いよく地面を蹴った。農民達の驚く声が聞こえる。
上から見て見ると、伊達軍が優勢。一揆衆が押されている。
『確かあっちから聞こえたよね?』
【えぇ、間違いないと思います】
声のした辺りへ移動していると、銀髪おさげの女の子が大きなハンマーを振り回し、兵を薙ぎ倒していた。
『──いた』
すぐその場に降り立ち、私は対面するようにその地に時雨の背から降りた。