月魄の狼-The Requiem of War-

□8.月魄姫(上)
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昔々、人と妖が同じ理(コトワリ)で戦をしていた。


突如、漆(なな)ノ獣等が躍り出て、大戦に終止符を打った。


壱ノ獣は空の王、弐ノ獣は地の王と畏怖された。


伍ノ獣等は、個々の地を治め泰平を齎(もたら)した。


漆(なな)ノ獣等は王と名乗り、人と理を別離した。


以来、妖は人を見守り…時には害を成す……


8.月魄姫(上)
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―キンッ!

―ガギンッ!


鍛錬場にて。金属の重なる音が響く。

私は黒靫を抜刀。右手に<大刀・冥月>左手に<小刀・夜月>、時雨は爪を妖怪化して鍛錬をしている。
もちろん人払いさせ、鍛錬場の周囲には二人以外誰もいない。さっきから激しい鍔迫り合いが続いていた。
ていうか、これって鍔迫り合いって言うのかな?
だって、時雨は<妖爪-ヨウソウ->……っていうんだけど、妖怪化して獣の手になってるから……まあいいや。こんなこと考えてる場合じゃない。
私は、二刀流で時雨に振りかざす。時雨はそれを受け止める。薙ぎ払う。はじき飛ばされ、間合いを取った。


「真正面からでは、敵の思う壺ですよ?」


ニコリと爽やかで皮肉めいた笑みを浮かべた。
いつも安心できるその笑みも、今では腹立たしいものに見える。
それが時雨の作戦。相手を苛立たせる、挑発してくる。


『そんな挑発乗らないよ』


それが命取りとなっていることは十分知っている。
この場合怒りを鎮め、冷静になる。冷静になることが大事。そう時雨にも、父や兄に教えられてきた。
攻めに攻めて押していった。再び鍔迫り合い…
右から来る妖爪をしゃがんでかわし、足を払った。
少し驚いた時雨は目を見開いつよろめく。
これで隙が出来た。首を狙うが、時雨は瞬時に体勢を整え妖爪を私に向ける。
時雨の首に黒靱が、私の腹に妖爪がギリギリまで迫っている所までで止まった。


「…引き分けですね」

『1勝87敗24引き分け…いや、今日で25引き分けだね』


黒靫を納め、縁側にふぅと腰掛け空を仰いだ。空が高くて綺麗だ。差し出された手拭いで汗を拭きとった。


「姫の足払い、効きましたよ。上達しましたね…」

『ありがとう、時雨』

「お茶を持って来ましょうね。喉乾いたでしょうし」

『うん!』
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