月魄の狼-The Requiem of War-
□6.風来坊、来る
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夢見た平和が
何処かにあるなら
探しに行こか 風の向こうへ
凍てつく寒さに
暖かな子守唄を…
6.風来坊、来る
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「最近さ、梵変わったよね」
成実という真ん中分けが唐突に呟いた。
畑で育った作物の収穫の休憩と称し、収穫した新鮮な作物を集め、半分は手伝ってくれた農民たちの手に渡った。
農民の一人が持ってきたお茶を貰い、椅子代わり成りそうな岩に座って喉を潤す。
いつもは俺と片倉、手伝いに来る農民とだが、今日は真ん中分けも一緒に手伝ったわけなのだが……
「どういう事だ、成実」
いきなり何を言うのかと怪訝な顔で片倉が言った。奴のことなど知らん。
「いやさ、神那ちゃんが来てから梵の様子がちょっとおかしくてさぁ〜」
「なんだ、そんな話か」
俺には、どーでもいい話だ。
「神那ちゃんって、可愛いし優しいし…誰に対しても笑顔で、媚びとか売らないよね。それに美人だし」
「確かに、なかなか居ない娘だな」
「当然だ、姫は一族の宝。幼少の頃より皆から慈愛を持って育てられたのだからな」
あんなに人間を恐れていたが、今では女中や兵士と普通に話して笑っている。
姫は変わったということだ。叢雅様達にも報告しよう、きっとお喜びになられる。
そして、同じように彼らも思い、主君は変わったと感じたのだろう。そして、話は姫から眼帯に戻る。
「梵、パッと見た感じいつも通りなんだけど時々ボーとして溜め息なんかつくし…もしかして"アレ"かな?」
「あぁ、恐らく"アレ"だろう」
そういうと、顔を見合わせニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべた。
ついに政宗様も…と、あの強面の片倉が微笑んでいる。
野菜を愛でている時のように微笑んでいることに、失礼だがほんの少し恐怖を感じた。
「おい、"アレ" とは何だ…」
奴のことなどどうでも言いが、己の中の好奇心が恐る恐る問うた。
「え? ぐれさん "アレ" いったら "アレ" でしょ?」
「 "アレ" では分からん。正式名を言え、それとぐれさんと呼ぶな」
あの宴以降、この男は俺のことを<ぐれさん>と呼んでいる。
迷惑極まりまい、俺は<ぐれさん>ではななく<時雨>と言う名だ。どこで聞き間違えたのやら……あの眼帯の従弟だからか、耳が馬鹿なのか?
「アレって言えば "恋" しかないでしょ!あの戦馬鹿の梵が……―───神那ちゃんに恋しちゃったってこと!」
「────……は?」
一瞬思考が止まった。あの眼帯餓鬼が姫に恋心を抱(いだ)いているだと?
あのプライドが高く、自己中な俺様の青二才が姫に…混乱しかかっている頭を何とか整理する。
「……奴はそれに気づいているのか?」
「様子からして、薄々感じておられるだろうな」
「うーん、どうかなぁ?…梵そう言うのに疎い感じがする……そういえば神那ちゃんは?」
「山へお出掛けになられた。何か獲物を狩って来られるだろう…」
それは楽しみだと喉を潤し、午後の収穫へ再開する。
確かに姫は妖怪の血を引き、人間離れした美貌を持っている。誰もがその姿に惚れるだろう。
だが、あの眼帯に姫を受け入れる覚悟があるものか。俺はあんな奴を認めない。
「あ、恋といえばあの人だな…」
真ん中分けが呟いた"あの人"は誰か知らないが、今はどうでもいい。