月魄の狼-The Requiem of War-

□5.歓迎
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月明かりが差す この大宴


楽(らく)を求めるは 此方へどうぞ


呼吸を忘れること 切なく


其の髪を頬を唇を


なぞることを赦しておくれ


5.歓迎
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「……ハァアア〜〜〜」

「溜め息をつく暇がありましたら、手を動かしてくださいませ、手を」


米沢城。
とある居室にて、盛大にため息をついたのは政宗。
その傍らには、巻物や書物の山を持ち整理をする小十郎。何度も何度もため息をはく政宗に喝を入れる。


「endが見えねぇ…」

「其れが終わりましたら、次は此方を」


バサバサと文机に次の書類が追加される。そしてまた、オレは深いため息を漏らす。
今まで溜めた分と今日の分が、オレの周りに巻物や書類が山積みとなっている。
そしてサボらぬようにと小十郎の監視の下、休憩もさせてくれない。これじゃあ逃げられねぇ…
どうしてこんなに溜めててしまったのか……そんなオレを呪う。
適当にやれば、小十郎に大目玉を食らう。しかも、一つ一つ目を通した内容はすべて頭ン中に入れなきゃならねぇ。
オレが目を通した書類は、小十郎が確認をする。それなら小十郎がやればいいと何度も思う。


「Shit…」


こんな時に神那のことが、頭から離れない。
今頃何やってんのか、何か心配というか…
成実に何かされてないか……いや、あの時雨がいる。
てか、あの野郎が神那と一緒にいることが気に喰わねぇ。


「神那のことが気になりますか?」


オレの気を察したのか、苦笑交じりに小十郎が言った。


「あの時雨がいるのですから、安心かと」

「そこが気に入らねぇんだよ」

「政宗様……何故時雨を毛嫌いなさるのです?時雨は真面目な男。この小十郎と同じく、主君を思い、主君の為に矛となり盾となる良き従者ではありませぬか」

「Ha!あの犬ッコロ、オレを餓鬼だの眼帯だの好き放題言いやがって…おまけに一日中神那の傍に…!」


悔しさに奥歯を噛みしめ、手はさらさらと筆を動かし手を止めない。
神那が恋しくてたまらない。他の男と居ると思うと腹立たしい。
女って奴は、権力に媚びうるクズ共だと思ってた。オレの正室になろうと裏を隠し愛想笑いを見せて。
だが、神那は違った。アイツは裏も表もない純粋な笑顔でオレに接した。あんな眩しく温かい笑顔は見たことがない。


「政宗様、もう一踏ん張りです」

「All right.意地でも今日中に終わらせてやる」

「準備も順調に進んでおります」

「Okey.神那に悟られるなよ?」




















**********


政宗の所にお世話になって数日。
私は、洗濯や掃除といった女中さんのお仕事をしたり、時間が開けば時雨と稽古をしたりして過ごしている。
今は時雨と庭の掃き掃除、少し落ちた枯れ葉を集めている。
木の半分以上の葉が茶色っぽくなっていて、もう秋なんだなぁと思う。そして冬が来のだと。
私と時雨の立場というか設定というか……正体は知られないほうが良いだろうと、四人で考えた結果──


"私は、生まれつき銀髪赤眼"

"時雨は、巨大な黒狼に化けたり…獣のチカラを持った忍"


これなら変化しなくていいし、時雨も外見が忍だから誤魔化しが効く。
耳と尻尾を隠さないと行けないけど、それはしょうがない。
政宗から、成実さんには本当のことを話していいかと言われた。


《Don't worry.見た目はあんなだが、アイツは信用できる》


後日、部屋にやって来た成実さんは、あっさりした感じで「だから神那ちゃんは綺麗なんだねぇ〜」と納得していた。


「姫、サボってはダメですよ」

『ハッ!ごめん、時雨』


今なら風も弱まったし、集めるなら今! 借りてきた籠に次々と落ち葉を入れる。
この落ち葉は、腐葉土にするらしい。小十郎の指定した場所に落ち葉を運ぶことになっていた。
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