月魄の狼-The Requiem of War-

□4.求め、望むもの
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笑ってもっと こんなオレに


お願い その声を聴かせて


するりと抜ける温かい手


突然悲しく孤独感に苛まれるのは何故?


これが "一目惚れ" ってやつなのか…


4.求め、望むもの

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「すみません、お客人なのに…」

『いえいえ! これも泊めてくださった恩返しです!』

「では、お願いします」

『はーい!』


真っ青な空が綺麗な今日。私は女中さんのお手伝いとして洗濯物を干しています。
ついでに、狼哭の家紋が入った上着を洗わせて貰った。
最初、手伝いますと言ったけど「政宗様のお客人にそんなことさせるわけにはいかない」と猛反対された。
やさせてくださいと頭を下げてお願いして、今に至る。
まぁ、家でも同じようなものだったし、変わんないか。時雨は、小十郎と一緒に畑に行っている。
あの小十郎の服装、なんか農夫にしか見えなかったな。鍬とか持ってるし…
戦装束しか見たことなかったから、ちょっと新鮮だった。
強面な小十郎の趣味が畑いじりってちょっと意外。
しかも、朝とかご飯に出される野菜は全て小十郎が作った野菜。
「いい趣味だね」と言ったら、めちゃくちゃ驚いていた。そんなこと初めて言われたらしい。
時雨もナニカを育てることが好きで、昔から植物や動物を育てることに興味があった。
これが時雨なりの一宿一飯の恩義の返し方、時雨らしいと思う。


《姫、俺は右目の畑へ行きますが……俺がいない間、絶対一人で勝手に何処かへ行かないでください。"危ない奴" の誘いが来てもにホイホイついて行かないこと!そして逃げること!》


──と、注意をされ念を押していた。特に最後の方……
危ない奴って…、そんな強調して言わなくてもいいじゃん。
誰を差しているか、おおよそ分かるけど。しつこく心配されて、やっと時雨は出かけていった。
まったく時雨ったら、もう子供じゃないんだから勘弁して欲しい。
政宗はというと……朝からずっと部屋に籠って政務をしている。溜りに溜まった仕事を必死にやっているんだろう。
机に溢れんばかりに積まれた紙の山、重要な事が書かれていそうな巻物が十数本。
目を通し、印などを押さなければならない書類。チラッと見たあの量を全部一日でやれって小十郎が言ってたけど…
いや、無理無理。絶対無理…出来るわけない。


「ねぇねぇ、君が神那ちゃん?」


名前を呼ばれ振り向けば、見知らぬ男が立っていた。
肩の上くらいに揃った茶色い髪、切れ長の蒼い瞳、顔立ちも政宗に似ている。


『そうですけど…』

「やっぱり! 梵が連れて来たって浪人の可愛い子だぁ!……けっこう美人だねぇ」


まじまじと私を見る。なんだか心まで見透かしているような……ちょっと怖い。


「成実、テメェ何してやがる!」

『あ、政宗』

「げっ、梵!?」


<しげざね>と呼ばれた男が苦い表情を浮かべた。眉を釣り上げて走ってくる政宗は、護身用にか刀を一本持っている。


「その呼び方はやめろ、お前みてぇなちゃらんぽらんが神那に近づくな」

「酷っ!? なんだよ、絶世の美女たる神那ちゃんに会ったっていいじゃないかぁ!」


ムッと顔をしかめる成実さん、少し子供っぽい……ていうか絶世の美女ってなんですか!?


『え、と…政宗。この人は?』

「小生意気な従弟だ」

「さらっと酷いよ、梵」

「梵言うな、梵」


子供みたいに言い合いをする光景がなんだか本当の兄弟に見える。


「神那ちゃん、今日中に此処を出るの?」


唐突に成実さんが私に向いて言った。その横で政宗が不機嫌に眉をひそめ、口をへの字に曲げていた気がした。


『あ、はい。時雨が帰って来次第……もう荷物もまとめてます』

「そっか、寂しいなぁ。旅ちょっと中断して此処に居ればいいのにぃ」

『そんな! ご迷惑ですし……』


私はまがい物の半妖ですから、と言えるわけがない。政宗は知ってるからいいけど、成実さんは知らないんだから。
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