孤高な呪術師

□2.現状把握の怪
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翌朝。

いつも通り起きて、いつも通り顔を洗って、髪を整え服を着替え終えて一番に彼の元へ足を運んだ。まったく、昨日はビックリした。
仕事から帰って、人の気配がすると思ったら甲冑来た大人版ハク様みたいなやつが倒れているんだから。
しかも甲冑なんか来て…何時代だよ。
特に怪我はなかったが、このままにして置くにも、警察に通報するにもいかず、結局 "2人" に手伝ってもらって布団に寝かせた。
襖を開けると、勝家は外を見ていたらしく窓の近くにいた。
親父の着物が良く似合ってるなぁ…、やっぱり大人版ハク様だ。
ハク様のあの水干を着せたらもろハク様だろうなぁ。おかっぱヘアーだし…


「…あの」

『なにハク様?』

「はく、さま……?」


やべぇええ!勝家って言おうとしたらハク様って言っちゃったぁああーーー!!
だってさだってさ!もろハク様なんだもん!!


『ご、ごめん忘れて。んで、何?』

「その……貴方の名は…?」

『──…あぁ!そっか言ってなかったな!そうだよなぁ、自分から名前聞いたら名乗らなくちゃいけないのに…。俺はみやび。芦川 みやびだ』

「芦川…氏(うじ)があるということは、貴方も武家の御方なのか…?」

『武家?氏?…まぁ、一応旧家だけど武家じゃない。苗字なんて誰でも持ってるぞ。とりあえずさ、朝ごはん食べない?』

「承知致した…」


ホント、元気がない奴だなぁ。須っごく心配になってきたわ、俺…
なんか危ないなこいつ、いろんな意味で。


『そういえば調子はどう?普通に歩いてるけど…』

「幾分かは、良くなったような気がする。歩行には支障はない」

『そう?ならいい事だ』


いつも朝ご飯を食べる台所へ行った。
前はテレビのある居間で食べていたが、今は一人暮らし。台所の方が手っ取り早いしダイニングテーブルはあるし食器がすぐ片づく。
勝家は部屋中をキョロキョロして不思議そうな顔をしていた。そんなに珍しいか?
あれから何か思い出したか聞いてみたが、彼は首を横に振るだけだった。
どうも本人は、名前と死ぬ直後?の事しか思い出せないようで、それよりも自分が生きていることに絶望している様だった。
台所に着き、勝家を椅子に座らせて俺は朝ごはんを作る。


『多分、お前記憶喪失なんじゃねぇかな』

「記憶喪失…」

『原理はどうなのは知らねぇけど、心因性や外傷性…薬剤性とかいろいろ聞くな。とにかく、今はご飯だ。もうちょっと待ってな』


冷凍しておいたご飯がレンジで解凍され、解凍完了の音が鳴る。音が鳴った途端、勝家がビクッと跳ねる。それほど驚くことか?
その間に味噌を投入し、麩と乾燥わかめを入れただけの味噌汁を作った。
あと、おかずにベーコンエッグを作った。ジ○リ某映画に出ていたあのベーコンエッグが旨そうだと思ってから時々作る。
冷蔵庫から漬物を出して、テーブルに二人分のご飯を並べた。今日の献立は、ご飯に麩とワカメの味噌汁、ベーコンエッグ。
朝ごはんは洋食だったり今日みたいな和食みたいな物だったりと、気分によってバラバラだ。


『ほら、出来たぞ。冷めんうちに食べり』


いだたきますと手を合わせて、飯に箸をつける。


「またしても白米…」

『白米嫌いか?』

「否、そうではなく…この様な高価なものを朝から食していい物なのか…ましてや卵まで……」

『別に、米も卵に簡単に手に入るぞ? 昼はオムレツとか作ってよく食べるし…俺的に米とパンの次に主食的なモンだな』

「御無烈…?」


何その漢字変換、オムレツ知らないのか?


「芦川氏…」


突然、勝家の口は開く。


「此処は、私の居た世界ではないかもしれない…」

『───は?』


何 そ の カ ミ ン グ ア ウ ト。
記憶なくして頭が可笑しくなったのかと思ったが、待てよと今までの事を思い出して眉をひそめる。
勝家は、電子レンジの音にかなり驚いていた。物珍しそうに部屋を見ていた。
それにあの鎧、良く出来てるなぁっと持っていたが本物の鉄でできていた。よく目を凝らせば乾いた血がこびり付いていた。
あと、本人には言っていないが鎧と一緒に変わった形をした薙刀みたいな武器らしきものが落ちていた。
これも良く出来た武器だなぁと思って、刃先を触った時指が切れた。
それに今では簡単に手に入る米と卵を、あまり食べる事がなかったのか高価な物という。
現代の常識と比べて、勝家の言う事は明らかに矛盾している。


「芦川氏、現世(いま)は天正の…戦国乱世の世……ではないのか…?」


親にすがる子供のような目で勝家が俺に問いかけた勝家。素直にいてしまった方がいいのか…


『──…戦国乱世とか天正とか言われてた時代は、もう何百年も昔だ。大体500年くらい前。今は平成だ』


それを聞いた勝家の顔がまた暗い、この世の終わりみたいな顔になった。


「…いっそのこと、死なせてくれ」

『残念だけど、俺にお前を殺す権利はない』


マジでそんなの無理だし、ピシャリと言い返した。


『人はな、何か宿命を背負って生まれてくるものだ』

「ならば、私の宿命はすでに終わった。なのに何故…」

『そりゃあ、何かまだやることがあるんだろうな。それが例え何かの罰だとしても…それを償って生きていかなきゃならない』

「……」

『生きろ、勝家…お前は死ぬには惜しい "人間" だ』
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