月魄の狼-The Requiem of War-

□2.狼少女と黒狼
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「……アンタ等は、何処から来た?」

『武蔵国です。一年くらい前、時雨と里を出て旅をしてます』

「里?」


彼は聞きなれない言葉に首を傾げて、聞き返す。


『三峯(みつみね)の里といって、私達妖狼<狼哭-ロウコク->一族の治める妖怪の里です。妖怪は、それぞれ隠れ里を持ってるんです』


たとえば、妖狐なら<狐火-キツネビ->とか化け狸なら<信楽-シガラキ->と言った名がある。
上級妖怪は一族の者と共に、それぞれの国に棲み、里を持ち、その棲み家を護って暮らしている。
妖狼なら武蔵の国を中心にした関東地方、化け狸なら四国だ。
それぞれの里はそれぞれの一族の長が里をまとめ、仲間と協力して里を護っている。
私からしてみれば、国主=里長、一族の皆=民や農民と、旅をして見た人間世界とどことなく今の人間社会と似ていると思った。
けど、大きな違いとして妖怪は滅多に戦はしない。
大昔はよくしたらしい(これは父から聞いた)が、今は別に"うちはうち、他所(よそ)は他所"みたいに……うまくは言えないけど関心がない。
あまり人間を襲うとかはないが、人間が里に危害を加えない限りなにもしない。たま〜にイタズラはするけど…人間を襲う妖怪ってのは、中級以下の奴らの事を言う。


「ほぅ…おもしれぇな」


感心したように彼は呟き、静かに話を聞く。無表情のまま、私から目を離さないから、ちょっと怖い…


『話の通りこの<狼哭>は、アナタ方で言うと苗字みたいなもので…。上級の妖怪一族は皆持ってます』

「だから"人間風"って、言ってたのか」

『その通りです』


彼は目を背けないまま暫く黙った。ちょっと息苦しく感じる空気が、広い部屋に渦巻く。短い沈黙を経て、彼が口を開く。


「最後に聞く……ちゃんと答えろよ」

『は、はい…』


一体何を聞かれるのだろう……











「Do you understand that I say?(オレの言ってることが分かるか?)」

『えっ、え〜と……Yes I do, it understands. It is flattery. (はい、分かりますよ。お上手ですね)』

「It is good also at you. I did not think that it could talk by no means. (アンタもな。まさか話せるとは思わなかった)」


思いがけない質問にぎょっとして声が裏返ってしまった。合っているかも分からないけど、自分なりに一生懸命答えてみた。どうやら通じたようだ。


「やっぱりな。アンタ、異国語分かるし話せるのか?」

『はぁ……何となく』


いつ気づいたんだんだろ…。会話の中から分かったのか? このヒトは、どこまで私を見透かしているんだ。



「どこで覚えた?」


身を乗り出して問いただす彼。少し興奮しているようにも見える。


『え、と……───』
「そのくらいにして貰おうか」


怒りのこもった口調で時雨が遮った。
答えを出せず俯いた私に助け船をだしてくれた。眉をつり上がらせ、髪が逆立ち妖気が溢れている。


「その質問は、貴様からしてみれば「何故右目に眼帯をしているのか」と聞いているようなものだぞ。これ以上、俺達の世界に入ってくるな」


睨み付けるくらいの眼差しを彼に向ける。また、無言のまま二人は睨み合う。また、激しく火花を散らしている。
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