月魄の狼-The Requiem of War-

□2.狼少女と黒狼
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私達が連れて来られたのは、広い大広間らしき部屋。目の前に彼が座り、その脇に小十郎さんが座った。
胡座をかき片膝を立てて、その上に頬杖をつく。それに対してきっちりとした正座をした小十郎さん。
私達はその向かい側に腰を下ろした。すると、部屋に膳が四つ運び込まれた。
熱々の白いご飯に、豆腐の入った味噌汁、野菜の漬物、煮物と言った食事が目の前に出された。
きゅるるるる〜と、また腹の虫が鳴り恥ずかしさで顔が熱くなり、赤面している事が分かる。
だって、朝から何も食べてないんだもん…


「腹減ってんだろ? 遠慮なく食えよ」

『は、はい。すみません……、その、ちゃんとしたご飯とか久しぶりで…』

「最近干し肉しか口にしてませんでしたからね…」


と、時雨は少し心配したように言った。ここ少しで体重が減ったと言われたばかり…
出された食事を食べながら、彼は今までの経緯を小十郎さんに説明した。
種子島に撃たれて死にかけていたところを、私に助けられたこと。
私が半妖、時雨が妖狼で、危険ではないことを話した。


「そうだったのか……神那と時雨だったか、感謝する」

『い、いいえ! とんでもないです』


頭を下げられ、反射的にこちらも頭を下げられる。
見た目は、ヤのつく人みたいだけど、実際いい人っぽい。


「神那、アンタ等にいくつか聞いていいか?」

『あ、はい……答えられる範囲なら』


三杯目のご飯のおかわりをよそっていた時、彼が口を開いた。
あぁ、此処に連れて来られたってことはなんか色々聞かれるんだろうなぁとは思ってたけど……
予想通りの展開。ここは正直に言ったほうが良いのかな?


「この奥州に何の用があって来た?」

『う〜ん、これと言ってないんですけど……強いて言うならただの観光ですかね? どんな土地かなと思いまして。あと、どんな人間が治めてるのかな〜って!まさか、御本人に会えるなんて思いませんでした』

「<独眼竜・伊達政宗>……貴様の噂は俺達の世界でもよく聞かれている」


彼との睨み合い以来、静かにしていた時雨が口を開いた。


「聞いたか小十郎! オレは妖怪からも名が知れてるようだぜ」


何とも誇らしげに、嬉しそうに言った。嬉しそうで何よりです。


「見たところ、十年くらい前とは変わらず土地は豊か。飢えている人間も獣もほぼいない。領主はアレだが、よく統治されていると思う」


と、続けて時雨は言った。
確かに、奥州に入ってから織田と比べモノにならないくらい豊かさ。
治める人間によって土地の豊かさは違う、ってお父さんが言ってたっけ…


「Ah? 十年前って……てめぇ、奥州に来たことあんのか?」

「貴様に教える義理はない」


ぴしゃりと冷たく返す。その態度に、刀を抜こうとした小十郎さんを落ち着け、と彼は宥(なだ)める。
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