月魄の狼-The Requiem of War-

□19.賽と諸刃の剣
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愛して 愛して


繋ぎとめるのはその本能


憎しみも裏を返せば


つまり同じだ 愛だ


迷うことなく アナタは手を差し出せるか?


19.賽と諸刃の剣
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半兵衛さんに城下へ行くとは言ったものの……妖力が封じられているため、人間に化けることが出来ない。かと言って外すこともできない。
尻尾は着物で隠せばいいから誤魔化せるけど耳は……やっぱり妖力を使って隠すしかない。いつもその方法だったり、香を使っているけれど今その香もない。
仕方なく何か要らない手拭いを貰って、頭に巻いた。そして……政宗から貰ったあの桜の髪飾りを付ける。
半兵衛さんからと、首輪を隠すための襟巻きを女中さんから渡された。
速足で裏門前で待っている三成さんと家康さんの所に行くと…「遅い!」と三成さんに一喝された。
大阪の城下町は米沢城の城下と比は違い、とてもにぎわっている。


『こ、これが大阪城の城下町ですかッ!?』

「騒がしい。静かにしろ、子ども」

『子どもじゃないです!もう私17ですッ!』

「静かにしろ女ッ!今ここで斬滅されたいのか!!」

『……斬滅したら半兵衛さんに怒られますよ?』


半兵衛さんの名前を出すと、三成さんの顔がこれまでにないほど歪む。


『それに私は女じゃなくて、神那って名前があるんです!』

「知らん」


知らんて…嘘だ!知ってるくせに!!
城下は人の声で自分の存在が消されてたような、そんな不思議な感覚に陥った。


『簪とか櫛がいっぱいですね!』

「神那殿、これはどうだろうか?」

『とっても素敵です!家康さんはセンスありますね!』

「扇子…?」

『あぁ、ごめんなさい。ええっと……家康さんは女の子の好みとか分かってるなぁって…感じで…』

「そ、そうだろうか…?」

「フン。簪などどれも同じだろう」

『同じじゃないです!人それぞれ好みがあるんですから、ちゃんと相手の好みを考えないと嫌われますよ?』

「そんなもの私には必要ない」


三成さんは頭が固いというか…何というか不思議な人。


「神那殿!次は甘味屋でも行こう」

『わぁー!良いですね!甘いもの大好きです!』

「ならば "藤乃屋" だ。秀吉様も一目置いておられる甘味屋だ」

『じゃあ、お土産に買っていきましょ!』


それにしても…人がたくさん。何度も人とぶつかってしまうほど人が……


『っ!』

「気ぃつけぇや、姉ちゃん」

『す、すみません…』


人にぶつかり、ぶつかってしまった男性に謝って前を向いた途端……三成さん達の姿は何処にもなかった。ど、どうしよう…はぐれちゃった…
とりあえず人ごみの中にいるのも危ないし邪魔になる為大通りから未知の端に一旦退避。


「おっ、嬢ちゃんかわええなぁ〜。俺といい事しねぇ?」


人ごみの波を逃れた途端、派手なヤ○ザ風な人に捕まった。
男は気持ち悪い笑みを浮かべている。もう私の本能が悪だと警鐘を鳴らす。


『い、いえ。結構です…』

「んな、硬いこと言わんで俺とおいでな」

『結構です!先を急ぎますので……』

「いいから来いって言ってんだろうがッ!」


ガシッと腕を強く掴まれ、路地裏に連れていかれそうになる。
男の馬鹿力の所為で、捕まれている腕が痛い…
仕方ない。妖力を使って逃げるしかないと判断した途端、男の腹に足蹴りが入った。


「ちょっとアンタさぁ…見て分かんねぇの?この子、嫌がってんだろうが…」


赤と茶色の左右違う髪の色をした人が、男の間に割り入り庇うように私を背に隠す。


「それとも…ここで殺る?」


赤茶の人の腰に差している二刀の双刀の鯉口がカチリと鳴る。
男は舌打ちをして逃げるように去っていった。


『あ、あの…ありがとうございます…』

「いいのいいの! そちらさん大丈夫?あの野郎に何かされてない?」

『はい。おかげさまで無傷です。私、神那と申します』

「そんなお礼とかいいッス!俺、島清興ってんだ!」

『清興さん。本当にありがとうございます』

「さんって…イイっすよ!さん要らないっす!」

『じゃ、じゃあ……清興君。そのッ…お礼に何か御馳走したいですけど…』

「えぇっ! いいんスか!?……いや!女の子に奢ってもらうなんて───」


―ぎゅるるるる…

清興君のお腹が盛大に鳴った。顔がだんだん赤面になっていった。


「……」

『清興君、何食べたいですか?』

「……」

『何でも食べたいモノ言っていいですよ』

「………すんません」
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