SS

□決意と覚悟
2ページ/3ページ



 *―*―*―*―*


 授業終了のチャイムが鳴り響き、今日一日の学生業務の終わりを告げる。
 先生が教室を後にした途端、仲の良い友人同士で集まってこの後どうしようかと会議したり、いつまでも教室に残ってダラダラとお喋りをするのは、ここお嬢様学校である常盤台中学でも見られる光景。どれだけ名門と謳われる超エリート校であろうとも、そこは一般校と変わらない。お高くとまっていてもやはり中学生は中学生らしくあるべきである。

「お・ね・え・さ・ま〜ん♪ お迎えにあがりましたのー!」
「突然抱きつくなっ! 鬱陶しい!!」
「へぶッ!」

 この二人に限っては逆にお嬢様らしく、お淑やかであるべきだと思うが。

「ったく。わざわざここまで来なくても下で待ってればいいのに」
「いいえ、そうも参りませんの! 黒子はお姉様の露払いとして、お姉様を悪しき者からお守りするため! 常にお傍におりますわ!!」
「悪しき者って…ここまだ校内なんだけど…」
「たとえ女子校であろうともお姉様を邪な目で見る不届き者はたくさんおりますの!!」
「んじゃまず鏡を見なさい。そこに映った人物が一番私を邪な目で見てる不届き者だから」
「まあ! お姉様はわたくしが隙あらばお姉様に邪なことをしようとする変態さんに見えますの!?」
「うん。まさに今。どさくさに紛れて私に触れようとするこの手が何よりの証拠よね」
「あぅっ! こ、これは…お姉様の胸元に付いてらっしゃるゴミを取って差し上げようかと…」
「あらそ? でも言ってくれれば自分で取るわ。本当に付いてるなら、の話だけど」
「つつついていたんですわ、さっきまでは!」
「ふぅ〜ん、そう」
「…………」
「まっ、少なくとも私はアンタ以上の変態を知らないわ」
「そ、そんなことおっしゃらないでくださいまし〜、これも愛するが故ですの〜」

 本気を交えた冗談を軽く交わしながら二人は歩を進める。
 美琴の隣を占め、毎度飽きずに行われる楽しそうなやり取りに周囲は羨望の眼差しを向けるが、いくら勇気を出しても白井程の変態になれる自信がなく、またなりたいとも思えないのだった。

「ねぇ黒子、確か今日非番だったわよね? 一緒に買い物にでも行かない?」
「おおおおお姉様からデ、デートの申し込みですのっ?!」
「いや、デートじゃないから。ただのショッピング」
「くぅ〜、黒子は…黒子は…なんっっって幸せ者ですのっ!!」
「聞いてないし…」

 美琴は暴走する白井を眺めながらどうするかなぁと頭を掻く。
 このまま放っておけば害が出る。主に自分に。
 だが止めるにしても言葉が通じないようなので実力行使しかない。
 と、二者択一を迫られるまでもなく後者を迷いなく選択した美琴が、周りの迷惑にならないよう、直接電流を流し込むべく白井の肩に手をポンっと乗せる。流石に気付いた白井が違和感を確認しようと首を回すと、とても清々しい、まるで天使のような笑顔を浮かべた美琴を視界に捉えた。
 でも何故だろう、なんか怖い。ダラダラと汗が滝のように流れて来るのを感じる。
 美琴が含みのある笑顔のまま「分かってるわよね?」と口を動かした。声は出ていない。だが、正確にその言葉を読み取ってしまった自分には首を縦に振る以外の行動を許されないだろう。
 そう、いつもなら。

「ぉ、お、お姉様!! き、今日は緊急招集がありますのー!!」

 力の限り叫んだその言葉に、美琴はあっさり手を引いた。来ると思っていたものが来なくて、どことなく寂しい気持ちがしないでもない白井黒子はやはり変態さんだ。

「なんだ、予定があるならあるって最初から言ってくれればよかったのに」
「も、申し訳ありませんの。わたくしもお姉様と久しぶりに二人っきりでお買い物に行きたかったものですから…。ついつい興奮してしまいましたわ」
「まぁちょっと残念だけど、買い物はまたいつでも行けるし。ね?」

 今度は本物の笑顔を向ける美琴。その笑顔だけで黒子は頑張れますの!! と白井は赤面しながら心の中で叫んだ。

「でもそっかー、招集じゃ支部までついて行けないし…、佐天さんは友達と一一一のコンサートに行くんだって昨日騒いでたしなー」

 白井が呼ばれているということは強制的に初春もダメだろう。もちろん二人の先輩である固法美偉も。
 そうなると美琴は気軽に誘える友人がいなくなってしまうのだ。決して交友関係が狭いとか、寂しい子だというわけではない。現に脳裏には婚后光子等数人の友人達が思い浮かんだ。
 が、彼女達の今日の日程を知っているわけではないし、自分から気兼ねなく気楽に誘うとなるとどうしたもんかと一歩踏み出せなくなってしまうのも事実。

「仕方ない。今日は立ち読みでもしに行きますか!」

 少し前ならばこういった日は決まって公園付近をブラブラしていた。とある不幸少年を探して。
 会えない時はそれだけで日が暮れていったが、運良く出会せばスーパーの特売や課題を手伝ったり、軽口を叩き合ったり。言い争いになることも多々あったけれど、それはそれで楽しい時間だった。

「んじゃ黒子、途中まで一緒に行きましょ」

 考えても仕方ないと美琴は思考を切り替える。そう決めただけでは切り替えることが出来ず、小さくブンブンと頭を左右に振ったのは完全な無意識だ。
 白井はその反応が何を意味しているのかを感じ取り、一度瞳を閉じると「待っててくださいましお姉様」と小さく小さく呟いて、美琴の隣に笑顔を浮かべて並んだ。

「……はい、お姉様!」

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ