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□ミサカ時々ミコト
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 とある日の放課後。
 いつものようにとある無能力者の少年に勝負を吹っ掛けようと探し回り、とある公園まで訪れた超能力者の少女、御坂美琴。
 今までは自分の能力が効かない『なんか気に食わない相手』として彼に勝つ為に追い掛けていた。けれども自分のクローンである『妹達』の実験を文字通り身体を張って食い止め、自分と彼女達の命を救ってくれた事件がキッカケで『なんか気になる相手』となり、最近では別の意味で追い掛けている。
 更に、夏休み最後の日に聞いた彼と見知らぬ男の間で交わされたとある約束が美琴の心に拍車を掛け、『勝負』とは最早会う為の口実に過ぎないのだが、本人に自覚はない。

「あれ? これってもしかして…」

 一体どこにいるんだとイライラしつつ、これまたいつもの自動販売機をいつものように蹴飛ばす為に近づいた時。自動販売機の横に見覚えのある軍用ゴーグルを発見した。
 直様それが妹達の物だと気付き拾い上げると―――。

「よぉ、御坂妹。久しぶりだなー」

 グッドタイミングで通りかかった探し人、上条当麻。
 彼は、彼女を手にしているゴーグルから彼女のクローンであり、妹の『御坂妹』と勘違いしたのだ。
 いくら瓜二つとはいえ、間違えられたことにムッとして怒鳴ろうとした美琴だったが、ハッと閃いた。

(こ、これは…普段聞けないことを聞けるチャンスなんじゃ!?)

 思い立ったら即行動の彼女。
 深呼吸で自身を落ち着かせると御坂妹になりきり、目の前の相手に色々突っ込んだ質問をすることを決行した。

「よ、よし! …え、えーっと、お久しぶりです、とミサカは挨拶をします」
「おぅ。身体の調子はどうなんだ? 大丈夫なのか?」
「はい。今はリハビリ中です、とミサカは簡潔に答えます」

 全然疑う様子のない彼に『よし上手くいってる、さすが私!』と心の中でほくそ笑みながら自分の演技力を褒め称える美琴。
 いくつか当たり障りのないやり取りをし、自分の演技力に更なる自信を付け、いざ本題!

「と、突然ですが……す、すすすす好きな人って、いるの? ……あ、とミサカは思い切った質問をします」

 緊張のあまり演技力台無しな彼女はこれでも常盤台中学のエース。
 明らかに変わってしまっている口調も態度も本人は全く気付いていないのだから流石です。

「へ? 好きな…ってはぃぃぃ?! ほ、ほんとに突然…な、なんなんでせうか?」
「いいいいから答えなさいよ! …とミサカは問い詰めます!」
「い、いや、いませんけどね?」

 先程までとは打って変わり、いつも以上の御坂妹の迫力にたじろぐ上条。
 中学生の女の子に気圧されている姿はなんとも情けないと思いつつ。何故そんな質問をされるのかも分からずに、取り敢えず適当に答えてしまう。
 だが美琴の方はその答えにホッと安堵の息を吐き、同時にちょっと残念に思いながら、意を決して更に踏み込んだ質問をすることにした。

「あ、そう、なんだ…。じゃ、じゃぁ好みのタイプは?! ……と、ミサカは次の質問をしてみます」
「え、えーっと…寮の管理人さん?」
「何で疑問形なのよ? てか寮の管理人って具体的には?! とミサカは突っ込んでみます!」
「か、家庭的なお姉さんってことですっ!!」

 いきなり距離を詰められ近くなった顔に思わず目を閉じ、全力で叫んでしまう純情少年。
 普段の彼女なら有り得ないだろうが、今は少しでも彼のことを聞き出そうと必死だ。

「と、年上が好き…ってこと? ならいつも一緒にいるシスターは?」
「へ? インデックス? あぁ、アイツはちょっと事情があって匿ってるだけで…」

 美琴が身を引いたことでホッと一安心してしまった上条はついつい余計な一言をポロリ。

「え!? ももも、もしかして一緒に住んでんのー!!??」

 当然、美琴はそのうっかり発言に食いつくわけで。上条は自分の爆弾…、いや自爆に気が付いた。

「うぇ?! あっ!! い、いや、でもですね? アイツはホント妹みたいなもんであって、決して何かあるわけではないんですよ!!」
「ぜ、絶対でしょうね?」
「絶対絶対!! 神に誓って何もしていないと上条さんは宣言しますっ!!」
「……ほんとぉにー?」
「本当だって! 夜も俺は風呂場に鍵かけて寝てるし、アイツは俺を飯用意してくれる存在だと思ってるし!!」
「……」
「な、何ですかその信用ならないって目は!?」
「だって……」
「なんなら一度見に来て下さっても結構ですのことよ!? 紳士上条さんには疚しいことなどなんっっっにもありませんからねっ!!」
「……ほんとの、ほんと?」

 慌てふためきながらも自分の無実(?)を一生懸命主張しようとする紳士上条さん。
 恋人でもない彼女にそこまで必死になって弁解する必要はないように思うが、不安そうな表情を浮かべているもんだから思わず焦る。どうしたら分かってもらえるかと半ばパニックを起こしていたが、ジッと見詰めて来る潤んだ瞳に少し冷静さを取り戻した。

「ああ。本当だよ」
「そ、そっか…」

 安心させるように出来る限りの優しい声で頭にポンと右手を置いて撫でてやると「えへへ」と嬉しそうに微笑む。
 そこで漸く彼はさっきから感じていた違和感に気が付いた。

「ところでさ」
「何?」
「なんかお前、いつもと違くね?」

 美琴はピシリと固まった。今自分は『妹』だったと思い出して。

「………そそ、そんなことないわよ? とミサカは主張します!!」
「そ、そっか? ならいいんだけど……、なんか美琴みたいな口調なのに……」
「み、みこっ!?」
「……まぁ表情が増えたってことはいいことだからな。うんうん」

 名前を呼ばれて反応する美琴だが、上条はそれをスルー。
 更には会心の笑顔を見せるものだからもう撃沈。

「おっと、そろそろ行かなきゃ特売の時間に間に合わねぇ。じゃぁ俺はもう行くな」
「あ…」
「ゆっくり話せて楽しかったよ。お前らと会う時はいつもドタバタしてっからさ」
「あ、あの!」
「ん? どうした?」

 自分が今『御坂妹』だということは分かっている。
 けど、それでも…今なら聞ける。ずっと聞きたいと思っていたことを、今なら…。

「あ、あのっ、あの、ね………、け、けけけけっケータイの番号教えてっ!!!!」
「あ? そういやまだ教えてなかったっけ? もちろんいいぜ」
「本当っ!?」

 ぱぁっと輝くような笑顔を見せる彼女に、上条の表情も自然と緩んだ。

「ああ。ほら、携帯出せよ」
「うん!」

 弾む声で返事をし、ポケットに手を突っ込んだ所で彼女はとても重要なことに気付く。

(って、ここで携帯出しちゃったら私だってバレるんじゃないの?!)

 と肝心な所が抜けている彼女はこれでも学園都市最高峰の超能力者。
 カエル型の携帯は些かインパクトが強い。彼女はそんなこと微塵も思っていないが『可愛いもの』としては印象的だと思っている。
 『姉妹でお揃い』ということにしてしまえば問題はないが、本人に確認された時、誤魔化すのが難しい。
 そもそも妹は携帯を持っていたかとか、ここでこんなやり取りをしてしまったこと自体どう誤魔化すのやら…といった感じなのだが…。収穫した情報にテンションが上がってしまっている彼女はそこまで頭が回っていない。

「ん? どうした?」
「あ、えっと…その…」
「もしかして携帯忘れてきた?」
「…う、うん…」
「そんな落ち込むなって。ちょっと待ってろ」

 あからさまに気落ちしている彼女に笑顔を向け、上条は学生鞄の中からノートを出して切り取り、そこに自分の番号とアドレスを書いて手渡した。

「ほれ。後でそこに番号メールしてくれればいいからさ」
「あ、ありがとう…」
「おぅ! じゃぁ待ってるからな〜」

 片手を軽く上げて去る上条。
 その背中を見送りながら、『私に対してよりも妹に対しての方が優しいんじゃない?』と心の中で悪態をつく。
 けれどもその顔は真っ赤でニヤケてすらいるのだが。もちろん本人に自覚はない。

「えへ、えへへ…待ってるって…待ってる……」

 頬の熱を冷ますように両手で覆い、嬉しそうに呟く。今の美琴を誰かが見たら、100%恋に落ちてしまうと言っても過言ではない笑顔を浮かべて。
 「きゃー!」とその場でバタバタ足を動かし、首をブンブン左右に振るという奇行をしていなければ、だが。

「はっ! こうしちゃいられないわ!! 早く帰ってメール送らなきゃ♪」

 ずっと知りたかった気になる彼の連絡先をゲット出来て大喜びな美琴は、ルンルン気分で無意識にスキップまでしながら帰って行った。

 
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