小説

□無欲
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ああ、これを受けたのが仗助たちでなくて良かった。
杜王町にて空城承太郎がその攻撃を喰らって思ったことがこれだった。自分の身にある意味で恐ろしい状態に陥っているというのに、彼は自分よりも先ず自分と共に事件を追っている者達への心配をするのだった。寧ろこのような思考が先立つからこそ、承太郎はいつだって誰かを躊躇なく庇うことが可能だと言える。
その喰らった攻撃とは唯の拳や蹴りで無く、勿論この町で蔓延っているいちスタンドによるものだ。本体はあまりにも普通に見える男性だった。一度姿を見ても再び合間見えた時には忘れてしまってしまいそうな程どこにでもいるような、中年に差し掛かった男。
男は強盗を働いていた。丁度そこに承太郎は居合わせた。承太郎は持ち合わせの良心からその男を止めようとこちらの方向へ逃げてくる男と対峙した。どうせ相手には見えまいと、スタープラチナを発動させて。男は自分の前に立ち憚る195cmもある巨躯に驚きその足を止めた。

「悪いことは言わねぇ。さっさと出頭するんだな」
「う、うるせぇっ!!」

この様子では、スタンドはいらないかもしれない。あまりにも平凡そうな男の身なりに承太郎は拍子抜けしながらも冷静に判断を進めた。男はまだ何もしていない承太郎に対してすらびくびくと怯えの表情を見せている。

(そんなに臆病ならば強盗なんて真似すんじゃねーぜ…。)

やれやれといった風に承太郎は男へと一歩ずつ近付く。男のなけなしの抵抗とも言えるようなナイフによる脅しなど、承太郎には意味が無い。正面からナイフの刃の平たい部分を指で掴み、スタープラチナを自身の腕にに重ねてひんまげた。男からすれば承太郎がやったように見えるだろう。

「ひっ…!?」
「もう一度言うぜ…、痛い目に合いたくねーのなら……てめーの足で出頭しろ」
「……。」

男は諦めたように肩を落とした。その次の瞬間だった。いきなり男の身体から何かが飛び出し、承太郎へと襲い掛かってきた。

(まさか、スタンド…!!?)

スタープラチナで咄嗟に防御態勢をとったが、そのスタンドは攻撃をしてくるのではなく幽霊のようように承太郎ごとスタープラチナの身体をすり抜けて行った。承太郎にはそれが最初相手の攻撃なのだということにすら気付けなかった。相手と対峙しなおしたところで自分の身体の変化に気付き、発達していない表情筋で戸惑いを顔に浮かべる。

「……?………!?」
「かかったな、なんでこんな俺が強盗をしても捕まらねーのかっていうのは実は最近手に入れた能力のおかげなんだ」

下卑いた笑いを顔に貼り付け、男は得意げに続けた。承太郎の息がほんの少し苦しげに乱れ始める。

「俺は相手の欲をッ!俺の思った通りに操ることができるッ!!その能力で、いつもは理性で抑えている本能を刺激する!そうすれば何よりも先にその強い欲を満たす為に、誰も俺のことなど構いやしないのだ!!」
「なるほど…そ、いう事か…」
「因みに俺を倒したところで治らない、その欲を達成しなければこの能力が解ける事はないッ!だから今ここで俺を倒しても意味がないぞ?」
「っ…」

承太郎は、無言で男に再び近付いた。

「無駄だって分からないのかい?俺は今お前の“性欲”を刺激した、早く処理したらどうだい欲求を満たしたいんだろ?人間が優先して満たしたがるのは性欲か睡眠欲、食欲だ。それを操れば手っ取り早いからな」

にたにたと下品な笑いを堪えもせず男は承太郎に話し掛けた。承太郎は相変わらず無言のまま、一歩また一歩と男へ歩を進めた。

「いけないいけない。いくらこの能力があるとは言え次の追手が来る前にここから離れないとな」
「待て…」

立ち去ろうとした男の服をがしりと掴む。その手はほんの少し震えていた。

「あ?」
「なるほど…てめーを、倒しても解除はされねーらしい。が、それがてめーを倒さない理由にゃーならねぇぜ…」

仗助達の為にもな、と付け加え今度こそ承太郎はスタープラチナの拳をオラオラと男にお見舞いした。身体に走る違和感のおかげで上手く手加減出来ず、派手にぶっ飛ばしてまった。
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