短編・荒北
□眠り姫にキスを
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先に「姫のキスで野獣は目覚める?」をお読みください。
彼氏の部屋に来て、まぁ、別にそーゆーコトしようとか考えてんじゃねェけどサ、ちょっと、無防備すぎじゃねェの?
俺は、目の前でぐーすか寝てる名無しさんを見て溜息を吐いた。
男だと意識されていないのか。いや、それはないはず。
一応、俺とこいつは付き合っている、はずなんだから。
そういや前に、新開に妙な入れ知恵されて、寝てる俺にキスしてこようとしてたな、こいつ。
あン時は軽口で“次はお前から”みたいなことを言ったが、されていない。
こいつは忘れてんのか?つか俺も今まで忘れてたけど。
はぁ、と、溜息が出る。
「おい」
試しに声を掛けてみる、が、反応がない。
思わず舌打ちが出た。
そーゆー気はないが、だが、こうも無防備できられるのは困る。
俺は頭をかき、もう一度溜息を吐いた。
「起きねーと、いい加減襲うぞ」
名無しさんの耳元で言うが、やはり反応がない。
「・・・忠告は、したからなァ・・・」
そう言い、俺は名無しさんの唇に俺の唇を重ねた。
「ん・・・」
そっと、名無しさんの目が開く。
至近距離で目が合う。
数秒後、やっと状況を理解したのか、名無しさんの顔がぼっと赤く染まった。
「な、なななん・・・!?」
俺から離れ、目を白黒させる名無しさんに、俺は笑った。
「ハッ、ンな無防備でいるからいけねーんだヨ」
あー、とかうーとか唸り、顔を赤くさせたまま、名無しさんは再度俺に近づいてきた。
「・・・」
「・・・」
「・・・仕返し」
そう真っ赤な顔をして舌を出す名無しさん。
「前に、つ、次は私から、・・・って」
自信無さ気に尻すぼみになっていく言葉。
つか、覚えてたのかよ・・・。
俺は片手で自分の口元を抑え、赤くなる顔を名無しさんに見られないよう顔をそむけた。
「靖友君・・・?」
俺の顔をのぞき込んでこようとする名無しさんの目を手で覆う。
「見ンな」
そう言い、俺はもう一度名無しさんと唇を重ねた。
そして、そっと名無しさんの目から手を放す。
名無しさんは俺を見て、ふふ、と笑いながら言った。
「靖友君、顔真っ赤」
俺は本気で襲ってやろうかと思った。