短編・巻島
□Valentine Day
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「裕介!!」
朝、登校してすぐに、私は机に向かって本を読んでいる彼氏の裕介に声をかけた。
「ん?」
本から顔を上げて私と視線を合わせる裕介に、私は鞄からあるものを出して、はい!と裕介に渡した。
「ああ、バレンタインか」
そう言って、裕介はそれを受け取ってくれた。
「ありがとな」
食べないかなぁ、とわくわくしながら見ていると、裕介は私の視線を感じたのか、包みを開けた。
ピンクの袋に赤いリボンをしたそれに手をかけ、リボンをほどく。
私が作ったのはマフィンとクッキーだ。
普段あまりお菓子なんて作らないけど、今回は頑張った。裕介に、おいしい、って言ってもらうために。
「食っていいか?」
そう尋ねてくる裕介に、私は少しドキドキしながらもうなずいた。
「ん」
裕介はまず、数枚入っているクッキーのほうを手にとった。
それが裕介の口に入るまでの数秒が、私にはとてもゆっくりに感じた。
「ど、どう?」
ドキドキしながら尋ねると、裕介は少し意外そうな顔をして言った。
「美味いっショ」
「よかったぁ」
ほっとして肩の力が抜けた。
「お菓子とか、作れたのか?」
「頑張って練習した!」
そう答えると、裕介は微かに笑って、私の頭に手を乗せた。
「また、つくってほしいっショ」
頭に乗せた手でヨシヨシと私の頭を撫でながら椅子に座ったまま私を見上げてくる裕介に少しドキドキしながら、私はうなずいた。
「うん!裕介のリクエストにも答えられるようにするね!!」
クハッ、と笑いながら、裕介は私の頭を撫でていてくれた。
次は、裕介の好みもきっちりリサーチしなきゃ!意気込む私を、裕介は微かに笑みを浮かべたまま見つめていた。