短編・巻島
□赤いゼラニウム
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裕介が合宿から帰ってきた。
合宿から帰っても、インターハイが近いためにあまり長い時間は一緒にいられない。
それでも、裕介は部活が終わった後、少しだけでも私といる時間を作ってくれる。
家が隣だということもあって、その時間を作るのは、さほど難しいことではなかった。
今は裕介の部屋で、何をするでもなく、ただ一緒にいる。
私は裕介の隣に座り、コテン、と裕介に寄り掛かった。
「どうかしたショ?」
尋ねてくる裕介に、んー、とだけ返事をする。
「眠いのか?」
確かに、眠いのもある。けど、ここで私が眠いと言ってしまっては、きっと私は家に帰ることになってしまう。
もう少しだけ、一緒にいたい。
「眠くないよー」
間延びしたその声は、自分でもわかるほどに眠そうだった。
裕介は微かに笑って、そーかヨ、と言った。
もしかしたら、裕介もまだ私と一緒にいたいと思ってくれているのかもしれない。
ああ、
「幸せ、だなぁ」
「ん?何か言ったっショ?」
「んーん、何でもない」
小さく紡がれたその言葉は、私の耳にも届かぬくらいに微かで、それでも反応してくれる裕介が、私はとても愛おしく感じた。
裕介の傍にいられてこそ、私は幸せだ。
今はまだ、彼が遠くに行ってしまうことなど知らずに。
幸せを感じながら、私はそっと目を閉じた。