短編・巻島
□またあした
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だんだんと空が暗くなってきた。
私は今、幼馴染の巻島裕介の家にいる。幼馴染にひとつ付け加えると、恋人。
中学のときに私は裕介が好きなんだと気づいたけど、幼馴染という関係を壊すのが怖くて告白なんてできなかった。
でも、高校に入って、同じクラスの女子が裕介を好きだと話しているのを聞いて、私は焦ってその日、裕介の部屋に押し入って言ってしまった。“他の女のとこになんか行っちゃやだ!!”って。
裕介は意味がわからず、はぁ?って顔をした。私ははっとして、言い直した。“好き。だから、付き合ってほしい”。そのときの私の顔は真っ赤だったと思う。声も、自分でもわかるくらいに震えていて。裕介は、そんな私を呆気にとられて見ていたが、すぐに立ち上がって私に近づいてきた。私の前で立ち止まると、ポン、と私の頭に手を乗せ、“俺も、好きっショ”そう言ってくれた。
それから、私たちは彼氏彼女になった。
「いい加減、起きるっショ」
溜息混じりの裕介の声が頭上から聞こえた。けれど、無視。
今日は裕介の家でお家デート。テスト前のテスト勉強だ。でも、勉強なんて退屈で、私はいつの間にか寝てしまっていた。
今はもうだんだんと頭が冴えてきたけど、私は寝た振りを続ける。
「どうせもう起きてるんショ?」
長い付き合いだからか、裕介にはすぐにバレてしまう。
「キス、してくれたら、起きる」
目を瞑ったまま、私はそう言った。
一拍後して、私の唇に裕介の唇が重なった。
裕介の家の隣にある私の家まで、裕介に送ってもらいながら、私はふふ、と笑った。
「眠り姫は、王子様のキスで目覚めるんだよ」
「姫って柄じゃないショ」
ハッ、と笑いながら言う裕介のみぞおちにひじ鉄を食らわせ、私は家の前で裕介と軽いキスを交わした。
「またあした」
「寝坊、するなショ」
「わかってるよ」
私が玄関をくぐるまで、裕介は見届けてくれた。
私が急いで2階に上がり、自分の部屋の窓から家に帰ろうとする裕介に手を振るまで、あと数秒。