短編・巻島

□B
1ページ/1ページ

先に「カメラ越しの視線A」をお読みください。



猫がいた、なんて言い訳、通じていない。それは、巻島君が言った言葉ですぐにわかった。


“前、カメラ越しに俺と目が合ったっショ”


バレていた。こっそり巻島君を見ていたなんて。さすがに、シャッターを押してしまったら盗撮になるからやっていないけれど、それでも、ストーカーまがいの、こんな行為を、巻島君に知られてしまった。

バレてしまった羞恥心と、巻島君がこんなにも近くにいるという羞恥心から、私の顔はどんどん熱くなっていく。


「ご、ごめんなさい」


そう言うしかなかった。それしか、私の口は発することができなかった。頭に血が上りすぎて、何がなんだかもうわからなくなってしまったいた。

私が震える声で謝ると、頭上からクハッ、と特徴的な笑いが聞こえた。


「ま、巻島君・・・?」


恐る恐る顔を上げると、笑いをこらえているのか、口元を手で覆いながらククク、と肩を揺らす巻島君の姿があった。


「名無しさんさん、俺のことこっそり見てたのバレて、そんで今謝ったっショ?」


巻島君の言葉に、私はうなずいた。


「俺も同じっショ」

「え?」

「俺も、名無しさんさん観察してた」

「かっ、観察!?」


私は驚いて声がひっくり返ってしまった。それにすら羞恥を覚え、これ以上ないってくらいに顔は赤くなる。


「どーやら俺は、名無しさんさんが好きみたいっショ」

「へ?ええ!?」


急展開すぎて頭がついていかない。


「てことで、付き合わない?」


その言葉に私はただ、頷くことしかできなかった。

夕日のせいで細く長く伸びる私たちの影が重なった。




 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ