短編・巻島
□B
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先に「カメラ越しの視線A」をお読みください。
猫がいた、なんて言い訳、通じていない。それは、巻島君が言った言葉ですぐにわかった。
“前、カメラ越しに俺と目が合ったっショ”
バレていた。こっそり巻島君を見ていたなんて。さすがに、シャッターを押してしまったら盗撮になるからやっていないけれど、それでも、ストーカーまがいの、こんな行為を、巻島君に知られてしまった。
バレてしまった羞恥心と、巻島君がこんなにも近くにいるという羞恥心から、私の顔はどんどん熱くなっていく。
「ご、ごめんなさい」
そう言うしかなかった。それしか、私の口は発することができなかった。頭に血が上りすぎて、何がなんだかもうわからなくなってしまったいた。
私が震える声で謝ると、頭上からクハッ、と特徴的な笑いが聞こえた。
「ま、巻島君・・・?」
恐る恐る顔を上げると、笑いをこらえているのか、口元を手で覆いながらククク、と肩を揺らす巻島君の姿があった。
「名無しさんさん、俺のことこっそり見てたのバレて、そんで今謝ったっショ?」
巻島君の言葉に、私はうなずいた。
「俺も同じっショ」
「え?」
「俺も、名無しさんさん観察してた」
「かっ、観察!?」
私は驚いて声がひっくり返ってしまった。それにすら羞恥を覚え、これ以上ないってくらいに顔は赤くなる。
「どーやら俺は、名無しさんさんが好きみたいっショ」
「へ?ええ!?」
急展開すぎて頭がついていかない。
「てことで、付き合わない?」
その言葉に私はただ、頷くことしかできなかった。
夕日のせいで細く長く伸びる私たちの影が重なった。