短編・巻島
□その手が冷たくとも
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「裕介君、遅いなぁ」
私は、クラスメイトであり、恋人の巻島裕介を待っていた。いつもは自転車で帰る裕介君だけど、今は修理中だとかで、ちょっとの間のバス通学。
本人にとっては練習できなくて不服だろうけど、少しラッキーと思ってしまう。
裕介君が自転車に乗ってるところは好き。そこに惚れたんだもん。でも、やっぱり一緒にいられる時間はうれしい。だから、こんなこと思っちゃうの、許してね。心の中で誤りながら、手袋のしていない両手に、私は息を吹きかけた。
「金城君とのお話、まだ終わらないのかなぁ」
今日はテスト前ということで、部活動はお休み。でも、部活のことでお話しがあるらしく、今は金城君たちと一緒。
教室で待っていればいいんだろうけど、裕介君が呼び出されたのは丁度バス停前まで来たところでだった。教室まで戻るのは面倒だったし、すぐ終わるらしかったので、私はバス停で待つことにしたんだけど、遅いなぁ。
私はまた、自分の両手に息を吹きかけた。
ぼーっ、と空を眺めていると、雲はどんどん厚くなり、地面に暗い影を落とし始めた。
「ごめんっショ」
そう声がして、振り返る。そこには、息を切らせて立っている裕介君がいた。
「走ってきたの?」
「寒い中、そんな待たせてらんないショ」
そう言う裕介君の姿に、私はフフ、と笑みをこぼし、もうすぐバス来るよ、タイミング良かったね。と言った。
ふと、裕介君が両手をこすり合わせていた私
の手を取った。
「手袋、いつもはしてるっショ」
忘れたのか?そう問いかけてくる裕介君に、私はまた笑みをこぼした。
「だって、手袋してたらもったいないじゃない」
「もったいない?」
「うん。せっかく、裕介君と手、つなげるのに」
あっそ、そう言って、裕介君はそっぽを向いて繋いでいない方の手で自分のマフラーを口元まで上げた。その耳がほんのりと赤く染まっているのを見て、私はそっと裕介君の手を握る力を強めた。
「裕介君、手ぇ冷たいね」
「名無しさんが温めてくれるんショ?」
もちろん。そう答えて、私はまた少しだけ手に力を込めた。