長編・金木犀
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それから、私と巻島君は毎朝挨拶を交わすようになった。
巻島君からしてくれることもあって、そんなとき私はとてもうれしくなる。
ただ、挨拶を交わすだけの仲であっても、私にとってはその短い時間が特別なもののように感じた。
放課後教室に残っていると、ふらりと巻島君がやってくることがある。
忘れ物をしたわけでもないようで、ただ、そこにいて、たまに私と話をするくらい。
少しは、期待してもいいのかな、なんて思ってみたり。
ある日、放課後例のごとく教室で一緒になった巻島君に私はある質問をした。
「巻島君は、金木犀の香り、好きなの?」
「急に、なんショ」
「んー、なんとなく?巻島君、なんだかこの匂い気に入ってるような気がしたから」
巻島君も、この香りが好きだといいなぁ。
そんなことを思った。
間違ってたらごめんね、と言うと、巻島君がなぜか慌てたように早口に言った。
「べ、別に、ンなことないっショ!!」
「そっかぁ、ごめんね」
ああ、そっか、別にそんな好きってわけじゃないのか。少し残念に思っていると、巻島君が更に慌てて言った。
「あ、いや、そうじゃなくて、その匂いはめちゃくちゃ気にいってるっショ!!」
普段の落ち着いている巻島君が、こんなに取り乱して、それで、金木犀の香りを好きだといってくれている。
巻島君の新しい一面が見れて、それでいて、金木犀の香りも好きだということに、私はなんだかとてもうれしくなった。
「そっかぁ」
自然と、笑みがこぼれる。
「ふふ」
「何、ショ」
「巻島君、顔真っ赤」
「っ!!夕日のせいっショ」
その言葉に、私はまた笑みをこぼした。
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