長編・金木犀

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教室に戻ると、幼馴染がお弁当を片づけていた。


「あ、おかえり。ほら、名無しさんも早く食べちゃいな」

「うん」

「・・・なんかあった?」


そう尋ねてくる幼馴染に、私は曖昧に笑った。


「う、ん。えと、教えてくれなかった・・・」

「は?教えてくれなかった?」

「うん。なんでもない、って」


私がそう言うと、幼馴染は、あー、と呟くように言った。


「そっか、答えてくんなかったか」

「・・・でも、まだ数回話したくらいだし、これでめげてちゃダメだよね!」

「お、めずらしく強気発言」

「私、巻島君が私に弱いところ見せてくれるくらい仲良くなれるよう、頑張る!」


そう息巻く私に、幼馴染は優しく笑って、そっか、と呟くように言った。



放課後になり、今日は真っ直ぐ家に帰ろうと考えていたときに、担任に呼び出された。

今度クラスで使う資料をホチキスでまとめてほしいとのこと。

特に予定もなかったので、私はそれを引き受け、幼馴染が部活をしている様子を眺めながら、プリントをまとめてホチキスで止める作業を延々と続けていた。

ようやくすべてホチキスでまとめ終わった頃には、ほとんどの部活が片づけをしている時間だった。

まとめたプリントを持ち、私は職員室へと向かった。


「先生、終わりましたよ」

「ああ、悪かったな。面倒な作業押し付けて。ほい、ご褒美」


そう言って、担任は私の手に飴を一つ転がせた。

セロファンに包まれた、懐かしいような飴だった。


「ありがとうございます」

「おー、こちらこそな。じゃ、気をつけて帰れよ」


失礼しました、と言って職員室を出る。

教室へ向かうと、カタリ、と教室から音がした。

誰か、いるのかな?


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