長編・金木犀

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巻島君とはクラスも違うし、お互い接点もないから、話しなんかすることもなく、2年に進級した。

テニス部に入部した幼馴染とも無事同じクラスになれて喜んでいると、ガラリと扉が開いた。

私の視界に入ったのは、綺麗な、タマ虫色。
巻島、裕介君・・・。

私は、巻島君と視線が合う前にパッと視線を逸らした。

なんでかはわからない。けど、うれしいと思った。うれしいなら、声をかければいいのに。でも、恥ずかしい。

よくわからない感情が私の中に渦巻く。

幼馴染がそんな私を一瞥して、私に耳打ちした。


「今日は部活ないから、一緒に帰ろう。話したいこともあるし」


チャイムが鳴り、幼馴染はニヤリと人の悪い笑みを浮かべて自分の席へと向かっていった。



担任が入ってきて、軽く自己紹介されて、真っ先に席替えが行われた。

くじを引いて、黒板に書かれた番号の席へと自分の机を持って移動する。

私の席のすぐそば。斜め後ろ。窓側の席に、彼はいた。

私はなんとか平静を保ち、机を置いて席に着いた。

心臓があり得ないくらいに高鳴る。顔が熱くなる。

他の人の席替えが終わるまで、私はその授業中ずっと机に顔を突っ伏していた。



放課後、幼馴染が私の元へと駆け寄ってきた。


「名無しさん、帰ろ」

「うん」


荷物を持って、席を立つ。まだ帰りの用意をしている巻島君の横を通る。

そのとき、巻島君がふと顔を上げた。

巻島君は数回目を瞬かせて、首を傾げた後、何事もなかったかのようにまた準備に戻った。



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