長編・金木犀

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授業をサボるわけにもいかず、トイレに行ったふりをしてすぐに教室に戻った。

一瞬名無しさんさんと目が合ったような気がしたが、きっと気のせいだろう。

昼休み、外で田所っちと俺は昼食をとった。


「相変わらず、よく食うっショ」

「自転車は腹が減るからな。巻島はもっと食ったほうがいいんじゃねぇか?俺ン家のパンやるよ」


無理やり渡されたパンを置き、俺は溜息を吐いた。


「なんだ?悩みごとか?」

「別に、なんでも」


答えようとして、俺の言葉が止まった。

あの香りがした。

顔を上げると、名無しさんさんがこっちに小走りで近づいてきていた。


「巻島君」


少し息を切らしている彼女に、俺は驚いて何も声をかけることができない。


「なん、ショ?」


やっと出てきた言葉がコレだ。


「なんか、さっき、様子がおかしかったように思えたから」


そう言う彼女も、よくわかっていないのか、少し困ったような顔をしていた。


「あー、別に、なんでもないっショ」

「そう?なら、いいんだけど・・・。あ、お昼の邪魔しちゃったね、それじゃあ、私はこれで」

そう言って、彼女はまた小走りで去って行った。


「ほーう」


隣でパンをもしゃもしゃ食べながら田所っちが怪しげな声を出した。


「何っショ」

「恋、か」


ニヤリと口元を歪めてそう言う田所っちに、俺は溜息を吐いた。


「別に、そんなんじゃないっショ。・・・それより、ケチャップこぼれそうだけど」


田所っちが手にしているバーガーからケチャップがこぼれそうなのを指摘すれば、田所っちは焦ってそのパンを食べることに専念した。まぁ、数秒でヤツの腹の中に納まったが。




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