長編・金木犀
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部活が終わり、俺は教室に忘れ物をしたのを思い出して、速足で教室に向かっていた。
ガラリと扉を開けると、ふわりと、またあの匂いだ。
「あ・・・」
中には、名無しさんさんがいた。
「あー、名無しさん、さん?まだ、帰ってなかった、のか?」
窓の淵に手を置き、外を眺めていた名無しさんさんは、俺のほうを見てゆっくりとうなずいた。
「うん。巻島君は、今、部活終わったの?」
ゆっくりと話されるその言葉は、とても心地良いもので、俺は答えるのに一瞬遅れた。
「あ、ああ、そうっショ」
「忘れ物?」
「まぁ」
そっか、と言うと、名無しさんさんはまた窓の外を眺めた。
「・・・帰らないんショ?」
「んー、もう少し、見ていたいなぁ」
彼女が何を見ているのか気になり、俺は彼女の隣に立った。
教室の窓からは、テニスコートが見えた。
「テニス部?」
そこでは、どうやら部内での練習試合をしているようで、まだ活動しているテニス部がいた。
「うん。私の幼馴染が女テニでね、今試合してるの」
そう言った彼女は、楽しそうに笑った。
「試合とか、見んの好きだったりするのか?」
「うん」
そう答えた彼女は、もうテニスコートの上で行われる試合しか目に入ってなかった。
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