長編・スマイル
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タクシーに乗り込んでからは早かったです。
女の子たちや幹ちゃんに急かされ、運転手さんは急いでくれました。
定員オーバーだとかいろいろ言われましたが、急いでくれました。多分。
そして、私たちは追い付いたのです。
先に見えた背中は、
弟君でした。
弟君は、地面に足をつけ、止まってしまっていました。
やっぱり、と言って近づく幹ちゃんに、弟君は謝りました。
「すいません、抜かれました・・・。一瞬・・・、でした」
落ち込んだ様子の弟君。それは、部員が1人増やせるというチャンスを逃したからというわけではなく、もっと純粋な、勝負に勝てないという、そういったショックから来たもののように見えます。
「すいません、一生懸命こいだんですけど」
「降りて!」
え・・・?
「幹、ちゃん?」
「早く降りて!!」
これまで見たことのないような剣幕で、(といっても最近知り合ったばかりですが)幹ちゃんは弟君にそう言いました。
「ダメ。一生懸命こいだってムダよ」
!!
幹ちゃんはそのまま弟君の自転車に近づき、傍らにしゃがみ込みました。
何か、自転車に不備があったのでしょうか?
「ダメ・・・ですよね」
悲しそうな顔をする弟君を見ていて、私は胸が苦しくなりました。
「坂道君」
私は弟君の横に立ち、弟君の肩を叩きました。
「・・・え・・・?名無しさん?」
やっぱり、気づいてなかったんですね。
私は苦笑して、弟君に幹ちゃんを見るよう促しました。
「え・・・?」
「急がないと・・・」
幹ちゃんはそう言うと、サドルの位置を変えだしました。
「追いつけないわ」
幹ちゃんは、今からでも今泉君に追いつくと、思っている・・・。
「気になってたのよ、小野田君のポジション。スタートの時から」
「ミキ!?こいつのサドルなんか上げてどうするの!!?」
「サドルにはその人に合った、適切な高さっていうのがあるの」
幹ちゃんの直してくれた高さのサドルに、弟君はまたがりました。
・・・。
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