短編・荒北
□合わさる目
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「・・・荒北さ」
私が呟くように言うと、荒北が扉に手をかけた状態で立ち止まった。
顔だけをこちらに向ける。
「普段みんなで練習してるときとか、あんまちゃんとやってないじゃん」
何が言いたいんだというように荒北の眉が上がる。
「でも、誰も見てないとこでちゃんとやってるの、私知ってるんだ」
驚いた?とでも言うように私は少しおどけて言った。
荒北の目が少し見開かれる。
「私ね、荒北のそういうとこ、好きだよ」
ぽかん、とした荒北の顔に、私は少し笑う。
「おま・・・、簡単に、男にそういうコト言ってんじゃねぇヨ」
バツが悪そうに頭を掻きながら言う荒北に、私はニッコリと微笑みながら首を傾げる。
「なんで?」
「・・・誤解されたら困るだろーが」
「いいよ」
「・・・」
「・・・」
「ハァ?」
私は、窓の外に視線を向けて、言う。
「誤解じゃないし」
ああもう、あっついなぁ。
「・・・」
荒北がまた私の前に置いてある椅子にどかっと座った。
荒北の手が私の頬をとらえ、無理やり目を合わせられる。
「後悔しても、しらネェぞ」
ニヤリと笑った荒北の顔が近くなり、一瞬後には、荒北と私の距離はなくなった。