短編・巻島
□紫色のアネモネは咲き誇る
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歩きながらふと足元を見ると、花壇にアネモネが咲いていた。
最近、まだ花開かない桜ばかり見上げていたから、足元に咲き誇るアネモネに気づかなかった。
桃、青、赤、白、そして、紫。様々な色のアネモネが咲いている。
大学に入ってから、私は1人暮らしを始めた。ホームシックなのだろうか。裕介に会えなくて寂しいのだろうか。今日はよく感傷に浸る。
しばらく足を止めてアネモネを見ていたが、私は再び帰路に着こうと足を進めた。
入口のところに、誰か立っていた。
見間違えるはずもない、特徴的な髪。
「裕介・・・?」
「おう」
私の声に反応して振り返った彼は、やはり巻島裕介だった。
「なんで・・・」
「こっちに来る用があったから、来たっショ」
あんま時間ないけど。そう言って苦笑いを浮かべた裕介。
「連絡、くれればよかったのに」
そう言って唇を尖らせる私に近寄り、裕介は私の頭に手を置いた。
「驚かせたかったっショ」
「・・・驚いた」
私が拗ねたようにそう言うと、裕介は微かに笑った。
「時間はどれくらいあるの?」
「明日の朝には発つ」
「そっか。お家に帰るの?」
「泊まってもいいか?」
「もちろん」
そう言って、私は裕介の手を引いて大学から出た。
夕飯は、何を作ろうか。
まずは、スーパーに寄って、それから家に帰って・・・。
なんだか、それが夫婦のようで、私は裕介の少し前を歩きながら自然と頬が緩んだ。
そういえば、紫色のアネモネの花言葉は・・・
あなたを信じて待つ
end