短編・その他
□A
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彼女と俺が出会ったのは、今日のような暑い日だった。
どこから情報を仕入れたのか、「転校生が来た!」と大はしゃぎのクラスメイトを横眼に、俺はただ青い空を見上げ、「こんな日は自転車を思い切り漕いでいたいな」などと思いを馳せていた。
しかし、今は自転車をメンテナンスに出しているため、そんなことは叶わない。こんな快晴の日にあれに乗れないとは、と溜息を吐くと同時に、チャイムが鳴った。
担任が入ってきて、続いて転校生が来た。正直、初めの印象は暗かった。転校生は女の子で、先生が、彼女は転校が多い、と言っていたことがもしかしたら原因なのかもしれない。
「名無しさん名無しさんです」
そう言って淡々と自己紹介を始めた彼女は、複数回の引っ越しで慣れたのか、慣れた様子だった。
「じゃあ、席は金城君の隣ね。金城君」
先生に呼ばれ、俺は彼女に席が分かるよう、手を挙げた。
彼女がゆっくりと俺の方へ向かってきて、隣の席に座った。
「よろしく」
座るときに小さくかけられたその声に、俺も「よろしく」と返し、まだ届いていないという教科書を見せるために、その日はほとんど机をくっつけていた。
話してみると、名無しさんは比較的明るい性格だった。話し方はゆっくりで、名無しさんと話していると時間の流れがとても緩やかなものに感じた。
しばらく経ったある日、俺は学校が終わると同時に学校を飛び出し、走って家まで帰った。その日は、メンテナンスに出していた自転車が家に届く日だったからだ。
家に着くと、もう自転車が置いてあった。部屋にランドセルを放るように置き、親に一声かけて俺は外に飛び出した。
ペダルを踏む。すると、前に進む。ただ進むのではなく、速く。速く、もっと速く!俺は流れる汗もそのままに、ペダルを踏み続けた。すると、前方に見知った影が見えた。
名無しさんだ。1人で歩いている。
向こうは気づいていないようだったが、声をかけないのも気が引けて、俺は追いかけるようにペダルを踏んだ。
あっという間に追いつき、声をかけようとしたとき、暑いなぁ、という呟きとともに名無しさんが溜息を吐いた。
よく見ると、なんだか少しふらついているようにも見える。
この暑さだ。熱中症になったら大変だと思い、俺は近くにあった自販機にお金を入れ、スポーツドリンクのボタンを押した。
「名無しさん」
俺が呼ぶと、名無しさんはすぐに振り返った。
「これを飲むといい」
そう言って、俺は先ほど買ったスポーツドリンクを差し出した。
名無しさんが渋っている様子だったので、「熱中症になると大変だろう」と言い、俺は押し付けるようにして名無しさんにスポーツドリンクを渡し、また自転車にまたがった。
「またあした」
そう言い、俺は名無しさんを追い越し、さらに自転車のスピードを速めた。
それから、名無しさんと俺はよく話すようになった。
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