短編・その他
□臆病ミント
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「自転車で走ってたとき、見たから」
でも、それが何で山岳の喜ぶような原因となったというのだろうか。
「山岳、その先輩のこと好きなの?」
もちろん、尊敬とかの意味で。
私がそう尋ねると、きょとん、とした顔をした後、はぁ、と溜息を吐いた。
「名無しさんが男からもらったガムを食べるのを死守できたから」
上目遣いに私を見やる山岳は、不敵にニッと口角を上げた。
「俺、名無しさんのこと好きだよ」
「そ、んなの・・・」
気づいていた。山岳が私に気があることくらい。
でも、この関係が心地よくて、気づかない振りをしていた。
私が返事に困ってうつむいてしまうと、山岳がムニッ、と私の頬をつまんだ。
「いーよ」
え、と私が口を開く前に、山岳が言葉を続けた。
「名無しさんがこの幼馴染って関係でいたいのはわかってるし。でも、いつか」
好き、って、言わせてみせる。そう山岳が口にした瞬間、私の口の中にミントの香りが広がった。
それは一瞬のことで、すぐに山岳の顔が離れていく。
「今はまだいいよ。俺、待つから」
そう言って、山岳は笑った。
今はまだ、このかけがえのない時間を大切にしていきたい。
でも、いつかは、きっと・・・。
それまで、待ってて。