短編・荒北
□A
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私は周囲に、まるで機械のようだと思われていることを知っていた。そう、噂されているのを聞いた。
自分自身も、ああ、確かに、そう納得していた。
親の言うことも、教師の言うことも、すべて受け入れて、こなしてきた。
そうすることが一番いいのだと、そう思っているから。
いまだって、そう。
だから、自分自身にこんな感情があったのかと、とても戸惑った。
それと同時に、悲しくなった。
こんな機械のような私に、好きになられてもきっと荒北君は困るだけ。
いつの間にか、私の頬には涙が伝っていた。
気づかなければよかった。こんな感情に。
私はその日、涙を流しながら眠りについた。
翌日、腫れた目をなんとか戻し、いつも通り学校へと向かった。
「よォ、名無しさんチャンじゃナァイ?」
そう私に声をかけてきたのは荒北君。
「おはようございます」
大丈夫。いつも通り。
そんな私の様子に、荒北君は少し顔を歪めた。
「アァ?ンだその顔」
いつも通り、のはず。できて、ない?
私が戸惑っていると、荒北君は私の腕を引っ張り、人気のない場所まで連れて行った。
「なんですか」
荒北君の顔を見ずにそう尋ねると、荒北君は私の顎を掴んでグイっ、と私の顔を上げた。そうすれば、自然と目が合ってしまう。
「あ、らきた、君・・・?」
顔に熱が集まっていく。ああ、赤い顔をしているんだろう。私は。
私のその顔を見ると、荒北君は満足そうに目を細めて笑った。
「普通に、そんな顔もできるんじゃナァイ?」
その言葉を理解できず、私は首を傾げた。
「機械とか、そんなんじゃネェっつてんのォ」
そう発せられた言葉に、私は目を丸くした。
「ナァ、もっといろんな顔見せろヨ」
野生の獣は、捕らえた獲物をきっと、逃さないのだろう。