短編・巻島

□C
2ページ/2ページ

その日、俺は放課後名無しさんさんに残ってもらうように頼まれた。

俺は今度こそ、名無しさんさんの真意を測りかねた。

名無しさんさんは、好きなヤツがいるんじゃないのか?

それは、もしかしたら俺なんじゃないかなんて、そんな自惚れも頭をかすめた。

俺も、大分テンパってたみたいで、思ってもいないことを口走ってしまった。


「・・・好きなヤツ、いるんショ?あんま男と2人っきりになると、そいつに勘違いされるショ」


名無しさんさんの目にどんどん涙がたまっていく。

何で、何で泣くっショ?どうして・・・?

俺の頭は真っ白になった。

あー、とか、うー、とか、情けない声しか出てこない。

俺は、なるべく優しく、名無しさんさんの涙をぬぐった。

何で泣いてんのかはわかんねェ。けど、泣くなら、俺の前でだけ、泣いてほしいと思った。

気づくと俺は、名無しさんさんを抱きしめていた。


「好き、っショ」


緊張のせいで、俺の声は少し掠れていた。


「ずっと、好きだったっショ。・・・でも、名無しさんさん、好きなヤツいるって、そう話してんの聞いて、だから、俺の出る幕はねェなって、そう思ってた。もちろん、好きだなんて、言うつもりはなかったっショ」


困らせんの嫌だし。小さく呟くように言ったその言葉も、この距離なら、彼女に聞こえているんじゃないかと思う。


「す・・・き・・・?」


名無しさんさんはそう呟くと、さらに涙をあふれさせた。

俺は焦って名無しさんさんの肩を掴んだ。

確かに、泣くなら俺の前で泣いてほしいと思った。けど、俺のせいでは泣いてほしくない。


「悪ぃ、そんなに、泣かせるつもりは・・・っ」

「ち、が・・・っ」


そう否定する彼女は、言葉を口にすることができないようで、もどかしそうに自分の目をぬぐった。

ああ、そんな乱暴にぬぐったら、腫れてしまう。俺は、名無しさんさんの腕を掴んだ。


「そんなふうにすると、目ぇ、腫れる、ショ・・・」

「ちが、違うの・・・っ」

涙で真っ赤になっている目で名無しさんさんは俺を見つめた。

ドクン、と、心臓が鳴ったのがわかった。

期待、してもいいのか・・・?

ゆっくりと、名無しさんさんの口が開かれる。


「好き・・・っ」


俺は息をのんだ。


「好き、なの・・・っ。巻島くんが、す・・・っ」


真っ赤な顔で、真っ赤な目でそう続けようとする名無しさんさんに、俺は耐えきれなくなって唇をふさいだ。


小さなリップ音を響かせ、俺はゆっくりと名無しさんさんから離れた。

そして、優しく、優しく抱きしめる。


「俺も、好き、ショ・・・」


3年間想い続けた俺の恋は、ようやく実った。



 
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ