短編・巻島
□C
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その日、俺は放課後名無しさんさんに残ってもらうように頼まれた。
俺は今度こそ、名無しさんさんの真意を測りかねた。
名無しさんさんは、好きなヤツがいるんじゃないのか?
それは、もしかしたら俺なんじゃないかなんて、そんな自惚れも頭をかすめた。
俺も、大分テンパってたみたいで、思ってもいないことを口走ってしまった。
「・・・好きなヤツ、いるんショ?あんま男と2人っきりになると、そいつに勘違いされるショ」
名無しさんさんの目にどんどん涙がたまっていく。
何で、何で泣くっショ?どうして・・・?
俺の頭は真っ白になった。
あー、とか、うー、とか、情けない声しか出てこない。
俺は、なるべく優しく、名無しさんさんの涙をぬぐった。
何で泣いてんのかはわかんねェ。けど、泣くなら、俺の前でだけ、泣いてほしいと思った。
気づくと俺は、名無しさんさんを抱きしめていた。
「好き、っショ」
緊張のせいで、俺の声は少し掠れていた。
「ずっと、好きだったっショ。・・・でも、名無しさんさん、好きなヤツいるって、そう話してんの聞いて、だから、俺の出る幕はねェなって、そう思ってた。もちろん、好きだなんて、言うつもりはなかったっショ」
困らせんの嫌だし。小さく呟くように言ったその言葉も、この距離なら、彼女に聞こえているんじゃないかと思う。
「す・・・き・・・?」
名無しさんさんはそう呟くと、さらに涙をあふれさせた。
俺は焦って名無しさんさんの肩を掴んだ。
確かに、泣くなら俺の前で泣いてほしいと思った。けど、俺のせいでは泣いてほしくない。
「悪ぃ、そんなに、泣かせるつもりは・・・っ」
「ち、が・・・っ」
そう否定する彼女は、言葉を口にすることができないようで、もどかしそうに自分の目をぬぐった。
ああ、そんな乱暴にぬぐったら、腫れてしまう。俺は、名無しさんさんの腕を掴んだ。
「そんなふうにすると、目ぇ、腫れる、ショ・・・」
「ちが、違うの・・・っ」
涙で真っ赤になっている目で名無しさんさんは俺を見つめた。
ドクン、と、心臓が鳴ったのがわかった。
期待、してもいいのか・・・?
ゆっくりと、名無しさんさんの口が開かれる。
「好き・・・っ」
俺は息をのんだ。
「好き、なの・・・っ。巻島くんが、す・・・っ」
真っ赤な顔で、真っ赤な目でそう続けようとする名無しさんさんに、俺は耐えきれなくなって唇をふさいだ。
小さなリップ音を響かせ、俺はゆっくりと名無しさんさんから離れた。
そして、優しく、優しく抱きしめる。
「俺も、好き、ショ・・・」
3年間想い続けた俺の恋は、ようやく実った。