短編・巻島
□B
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「泣くなショ・・・。俺、優しい言葉とか、かけんの苦手だし、こういうとき、どうしたらいいかわかんねェ」
「ご、ごめ、すぐ、泣きやむから・・・っ」
泣きやめ。早く、涙、引っ込め。そう、思うのに、涙は止まってくれない。
歯を食いしばって、嗚咽が漏れないようにする。
「別に、泣きやまなくてもいいショ」
「え・・・?」
巻島君の腕の中から、そっと顔を上げて巻島君の顔を見る。
巻島君の顔は耳まで真っ赤になっている。
「俺の前だけなら、泣いたって、いいっショ」
巻島君は片手で乱暴に自分の髪をかくと、私の目を見て言った。
「好き、っショ」
その声は少し掠れていた。
「ずっと、好きだったっショ。・・・でも、名無しさんさん、好きなヤツいるって、そう話してんの聞いて、だから、俺の出る幕はねェなって、そう思ってた。もちろん、好きだなんて、言うつもりはなかったっショ」
困らせんの嫌だし。小声で呟くその言葉も、この距離では私にも聞こえる。
「す・・・き・・・?」
私の目から、また涙が出てくる。
さらに泣き出した私にぎょっとして、巻島君が私の肩を掴む。
「悪ぃ、そんなに、泣かせるつもりは・・・っ」
「ち、が・・・っ」
違う。私も好きなの。そう言いたいのに、私はうまく言葉を発することができない。もどかしくて、乱暴に目をぬぐう。
その私の腕を巻島君が掴んで止めた。
「そんなふうにすると、目ぇ、腫れる、ショ・・・」
私は巻島君に腕を掴まれたまま、嫌々をするように首を横に振った。
「ちが、違うの・・・っ」
涙で真っ赤になっているだろう目を巻島君に向けて、私ははっきりと言った。
「好き・・・っ」
巻島君が息をのむ。
「好き、なの・・・っ。巻島くんが、す・・・っ」
言いかけて、私は唇をふさがれた。
小さなリップ音を響かせ、巻島君の唇が私の唇から離れた。
「俺も、好き、ショ・・・」
そう言って私を抱きしめる巻島君を、私は少し強い力で抱きしめ返した。