長編・金木犀

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「おはよう」


その翌日は、ちゃんと挨拶をすることができた。


「お、はよ・・・」


巻島君が返してくれたことがうれしくて、私は自然と笑みがこぼれた。

そのまま自分の席に着くと、幼馴染がやってきた。


「挨拶、できたじゃん」


そう言って、よくやった、と私の頭を少し乱暴に撫でる幼馴染にはにかみながら笑った。


「昨日の放課後も、なんか進展あったみたいだし?」


・・・どうやら、試合の最中教室のほうを見ていたらしい。

全く気付かなかった・・・。


「試合、集中しなきゃダメだよ」


唇を尖らせて言う私に、幼馴染はまたニヤニヤと笑った。


「はいはい。てゆーか、私が名無しさんのほう見たことにも気づかないくらい、巻島に夢中になっちゃってたんだ」


その言葉に、私はまた顔を赤くした。



休み時間になり、近くの席の子が話しかけてきた。


「名無しさんってさ、いつも良い匂いするよね」

「何か香水でも付けてるの?」


興味津々といった様子の彼女たちに、私はニコリと微笑んで答えようとした。


「香水じゃないよ。これはね」


言いかけて、ガタン、と大きな音が後ろから聞こえてきた。

振り返ると、巻島君だった。

巻島君は、何も言わずに、そのまま教室を出て行った。

どうか、したのかなぁ・・・。



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