短編・巻島

□どこにでもあるような、そんな日。
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天気予報がはずれた。

雨だ。

私は放課後の教室から窓の外の暗く厚い雲を見上げた。

傘がない、とあちらこちらで聞こえてくる声をBGMに、私は教室を出た。


「ゆーすけ」


隣のクラスの巻島裕介のところへ行き、背後から声をかける。

そうすると、裕介はビクッ、と少し驚いた様子を見せた後、少し不機嫌そうに振り返った。


「何ショ」

「なんか機嫌悪い?」

「名無しさんが急に驚かせるからショ」


溜息を吐いて、席を立つ。


「裕介、今日は部活ないって言ってたよね」


帰路に着こうとする裕介の横を歩きながら私はちらりと裕介のほうを見上げて言った。

すると聞こえてくる息を吐く音。


「傘、ないのかよ」

「うん」


即答するとまた溜息。


「裕介、そんなに溜息吐いてたら幸せ逃げちゃうよ?」

「誰のせいショ」


いつの間にか下駄箱の前まで着いていて、裕介も私も靴を履きかえる。

雨は、さっきよりかは弱くなっていた。


「ほら」


裕介が傘を開いて私に差し出してくる。


「帰るっショ」


「うん!!」



そんな、どこにでもあるようなありきたりな日。



「あ、裕介そっちの肩濡れてるじゃん。風邪ひくよ?」

「そんなやわじゃないショ」

「頑丈には見えないけど」


そう言うと、裕介は少しむくれたようにムッとした。

ふふ、と笑いながら、私は裕介に近づいた。


「ほら、こうすれば濡れないでしょ?」



 

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