短編・荒北
□@視界不瞭につき
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ああ、大変だ。
困った。非常に、とても、困った。
私は地面にしゃがみ、目を細めてしきりに地面を見渡す。
ダメだ、見えない。
もう諦めようかと思ったとき、傍でジャッという音がした。
「何してんだァ?」
そう声をかけてくれた人がいた。
「えと、コンタクトを落としてしまって」
そう。私はコンタクトレンズと落としてしまった。そのため、今現在私に話かけてくれているこの人の顔すらも認識することができない。
でもたぶん、この人は同じ学校の人。
ここは私の通っている箱根学園の通学路だし、うちの学校には自転車部があって、しかもその自転車部とても強いらしい。
たまに自転車で走っているところを見かけたことがある。
強豪である故に、人も多い。この人は、誰だろうか。
一応、最上級生だから先輩ということはないだろうけど。
「コンタクトォ?」
その人は自転車から降りた。
「ここで落としたのかよ」
「うん」
頷くと、その人もしゃがんだ。
私が驚いていると、その人がまた私に話しかけてきた。
「お前ェも探せよ」
少し低い声に、私は思わず「ハイッ」と背筋を正して返事をした。
怖い人だ。
しばらく探していると、「お、」と一緒に探してくれている人が声をあげた。
「あったぞ」
「ほんと?」
「ほれ」
その人が差し出してくれたのはコンタクトレンズ。
「ああありがとぉ・・・!!」
うれしくて少し声が震えた。
「じゃ、俺は行くから」
そう言い、その人は自転車にまたがり私が何かを言う前にまた、ジャッと音を立ててそこから去って行った。
結局、あれは誰だったのだろうか。