長編・金木犀

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昨日見かけたあの男の子は、隣のクラスの巻島裕介君というらしい。

先生に特徴を話したら、すぐに教えてもらえた。

名前がわかったからといって、なんだという感じなのだが。


「名無しさん」

「あ、金城君」

「少しいいか?」

「うん」


同じクラスの金城君と、部活が同じらしい。

金城君は、自転車競技部。巻島君はあんなに細いのに、筋肉とかあるのだろうか?

ぼんやりとそんなことを考えていたら、金城君が不思議そうに私の名前を呼んだ。


「名無しさん?」

「あ、ごめん。何?」


はっとして金城君を見ると、背後から金城君に声がかかった。


「金城」

「ああ、巻島か」

「今日の部活のことで・・・、って、話中だったか。悪い、また後で来るっショ」


振り返ると、昨日から私の頭の中から離れない巻島裕介君がいた。

巻島君は片手を上げて去ろうとする。金城君はそれを呼び止めた。


「巻島」


金城君は少し離れてしまった巻島君のところへ行き一言二言話をすると、すぐに戻ってきた。


「すまない。で、話なんだが」


金城君の話というのは今日の授業の内容のことだった。


「そうか。ありがとう」


そう言い、金城君はふわりと笑った。


「どういたしまして」

「そういえば」


金城君は思い出したように私の目をじっと見てきた。


「何か香水でもつけているのか?」


香袋の匂いは微かなものだったから、気づいてくれるとは思わなかった。

まして、金城君と話すのは初めてなのに。

私は少しうれしくなり、自然と笑みがこぼれた。


「ううん。これね」



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