短編・荒北
□@マイナス28センチ
1ページ/1ページ
私は今日、日直です。
放課後、日誌を書き終えて最後に黒板を綺麗にする。
その後に日誌を職員室の担任の机の上に置いたらそのまま下校。
つい先ほど、日誌は書き終えた。
後は、黒板を綺麗にする。
だがしかし。ここで問題が生じた。
私の身長は低い。一般の女子高生よりも低いほうだろう。
なんてったって、ギリギリ150センチ。
腕を必死に伸ばして黒板の上のほうを消そうとするが、届かない。
諦めて、椅子を持ってきてその上に乗ろうとする。
丁度そのとき、教室の扉がガラリと音を立てて開いた。
「おまっ、何してんダヨっ」
焦ったような声が聞こえて振り返ると、同じクラスで彼氏の荒北君。
彼氏といっても、まだ付き合い始めて数日しか経っていない。
告白は荒北君からで、私もぶっきらぼうだけど優しい荒北君が好きだったから付き合うことになった。
けど、本当に付き合っているのかわからないくらい以前と私たちの関係は変わらなかった。
デートも、手を繋ぐことも、お昼を一緒に食べることも、一緒に帰ることもない。恋人らしいことなんかしてない。
「何って、黒板を綺麗にしようと・・・」
「それでどォして椅子が必要なんダヨ」
「だって届かない・・・」
少し唇と尖らせて言う私を見て、荒北君が納得したようにああ、と言った。
「貸してみろヨ」
そう言って、半ば無理やり私の手から黒板消しを取り、背伸びもせずに私が消せなかったところまで消した。
「ありがとう」
「ドーイタシマシテ」
私がお礼を言うと、荒北君は黒板消しを元の位置に戻して自分の席へ向かった。
忘れ物でもしたのだろう。
机の中をごそごそとあさり、目的の物を見つけたようでそれ取る。
ついでに私の席に置いてあった日誌と、机の横にかけておいた私の鞄を持って再び扉のほうへと向かって行った。
「帰らないノォ?」
ガラリと音を立てて扉を開けると、こちらを向いてそう言った。
「あ、えっ?」
「職員室、このプリント担任に渡さなきゃなんねーから。ついでに、部活見てけヨ。ンで終わったら送ってく」
その言葉に、私は単純にも浮かれて、満面の笑みを浮かべて荒北君に駆け寄った。
「うんっ」
荒北君はそんな私の頭に手を乗せ、ヨシヨシ、と言うように頭を撫でた。
「荒北君?」
「明日っから、昼メシ一緒に食うか」
荒北君は、もしかしたら私の心が読めるのかもしれない。
そんなことを思い、私はまた笑顔で頷いた。