短編・その他
□ライラック
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「福富ー、担任が探してたよ」
部活中の彼に声をかけると、わかったと言い、彼は職員室へと向かっていった。
「名無しさんか!俺の練習する姿を見に来たのだな!」
自信満々に言う東堂に、呆れた視線を向ける。
「何言ってんの?」
東堂とは、中学のときからの知り合いだ。中学の時に、私が箱根に引っ越してきて、知り合った。
私は幼い頃から、両親の都合で引っ越しが多く、友達なんてものはなかなかできなかった。
中学に入る前、この箱根へ引っ越してきて、両親が、もう引っ越しはないと言った。
喜べるはずのことだったのに、私は喜べなかった。
引っ越す前に、好きな人ができていたから。
友達にはこの話をしていない。小学生の頃に好きだった人が、未だ好きだなんて。
「美化されてるのかなぁ」
思い出なんて、自分の都合いいように書き換えられていてもおかしくはない。
私の呟きに、スポドリを飲んでいた東堂が、ん?とこちらを向いた。
「名無しさんの初恋の君のことか」
東堂にだけは、話した。こいつがあまりにしつこかったから。でも本当は、誰かに聞いてほしかったのかもしれない。そんなこと口には出さないけど。
「名前はなんと言ったか?」
「・・・しんごくん」
「しんご・・・、しんごといえば、確か巻ちゃんのいる総北の主将も、きん」
「東堂ォ!いつまでインターバルとってんだァ!!」
言いかけて、荒北に遮られた。
「ああ、すぐに行く!・・・すまない、俺は練習に戻るが、あまり1人で悩むなよ?」
そう言い残し、東堂が自転車に乗って荒北たち自転車部の仲間のところへ走って行った。
そういえば、しんごくんも自転車によく乗ってたなぁ。
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