長編・金木犀

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私は、小さい頃から金木犀の花の香りが好きだった。

秋ごろになるとふわりと香ってくるこの香りを嗅ぐと、私はその場に立ち止まり、金木犀の木を探した。

そして、金木犀の木の傍まで寄り、そこから動かなくなってしまったこともよくあった。

ある日、おばあちゃんが私に小さなお守り袋のようなものをくれた。

そこからは私の大好きな、金木犀の香りがした。

それから、その香袋は私の宝物になった。



高校は、家から通える場所にあるという理由で、千葉県立総北高等学校に入った。

バスを降りて、校舎に入る。新しい高校生活に胸を躍らせ、私は鞄を持つ手にギュッと力を込め、深く深呼吸をした。

ふわりと金木犀の香りがする。うん、大丈夫。

1年生のクラスに入り、友達もできた。

運よく初めの席替えで私の前の席になった幼馴染は後ろの席の私の机に肘を突き、話しかけてきた。


「あたし、テニス部入るんだ。名無しさんは何かやらないの?」

「ん?私は帰宅部」


私の言葉に、ガクッ、と肩を落とし、苦笑された。


「観る専門なんです」

「運動音痴だしね」


カラカラ笑う友人に、私は少し唇を尖らせた。

放課後、友人はさっそくテニス部へ入部届を出して今日から参加するそうだ。


「試合は観に行くから呼んでね」

「言われなくとも!」


そう返事をして、友人は走って外へ出て行った。

私も帰ろう。

鞄を持ち、席から立つ。教室の扉を開けると、すぐ目の前を緑色の髪をした男の子が歩いて行った。

向こうは、私に気づいていないようで、速足に外へ向かっていった。


「すごい髪の色・・・」


でも、すごくきれい・・・。

しばらく、その男の子が去って行った方を見てから、ハッとして私も外へ向かった。

今日の夕飯はなんだろうか。

金木犀の香りに包まれながら、なぜだか私はいつもよりもご機嫌な様子で帰路についた。



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