長編・金木犀
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それから、俺たちは前と同じ関係になった。
朝は挨拶をする。放課後、気が向いたら教室に寄って会う。
いや、違うか。
やってることは前と同じ、でも、違う。
なんかこう、近くなった感じがする。
「巻島君!」
その日、朝の挨拶だけで終わるはずが、名無しさんさんが話しかけてきた。
目を爛々と輝かせて、俺の机の向こうに立ち、机に手を着いている。
「何、ショ?」
何事かと俺は目を白黒させていると、名無しさんさんが続けた。
「今度、大会に出るってホント!?」
「それ、ドコからの情報っショ?」
「田所君」
田所っち・・・。あれで完全に忘れたと思ったのに。
しかもなんか変に勘違いしてる。・・・いや、今となっちゃ勘違いでもねぇか。
「ね、応援に行ってもいい!?」
それは、前に俺から誘おうと思っていたことだった。
いろいろあって誘うのを忘れていたが。
「来て、くれるんショ?」
「もちろん!!」
ああ、この笑顔が、俺は好きだ。
「巻島君の走り方は独特だから、すぐにわかるって言ってたよ!あ、でも、どこらへんで見ればいいのかなぁ?」
「見る場所は、オススメの場所後で教えるっショ」
走り方が独特、か。
俺の走り方は巷じゃキモイとかコワイとか言われてっけど、名無しさんさんがそれを見て、俺に幻滅したりしたら・・・。
沈みかけたテンションは、名無しさんさんの言葉ですぐに吹き飛んだ。
「楽しみだなぁ」
「クハッ」
「ま、巻島君?」
急に笑い出した俺を見て、名無しさんさんがおろおろしている。
ああ、そんな心配する必要はないか。
もし、これくらいで幻滅されるようなら、元から脈ナシだ。
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