長編・金木犀
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今度、俺は大会に出ることになった。
そんなに大きな大会でもないが、俺は名無しさんさんに応援に来てほしいと思った。
教室で言うのは人目を惹きそうだったので、放課後、部活の終わった後にでも教室で会えたら誘ってみようと思った。
昼休み、喉が渇いたので自販機に向かった。
自販機にコインを入れようとしたとき、近くの角から話し声がした。
「名無しさんさん!好きです!付き合ってください!」
告白現場だ。
しかも、相手は名無しさんさん。
気まずいことこの上ない。
幸い、まだ相手は気づいていないようだった。
俺は、コインを入れずに手に握り、その場を去ろうとした。
別に、彼女が誰と付き合おうと、俺が気にすることじゃない。
「えと、その、気持ちはありがたいんだけど・・・、私、好きな人がいるんです。・・・だから、ごめんなさい・・・!」
彼女の、告白の返事を聞いてしまった。
聞かないつもりだったのに、聞こえてしまった。
そうか、好きな人が、いるのか。
告白を断ったことよりも、俺は、名無しさんさんに好きな人がいるという事実のほうばかりが気になってしまった。
その日から、部活の後教室に寄ることはなくなった。
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